永遠に溶けない雪
結城 森士

確かなものなど何一つない
自我の拠り所も、頼るべきものや力もなく
浮き草のように水にゆれ動く精神のまま
ぼくらは愛し合っているふりをしていた

冬の日に雪となり、ひとつの場所に留まり続けても
やがて春が来て、再び水になってしまえば廻り続けるしかない
この場所には、永遠というものは存在しない
溶けない雪などないのだ

ずっと愛してるよ、と答えた
きみがそう言って欲しそうにしていたから
存在しないはずの永遠を約束した

きみは確かなものを求める
でも、言葉なんて道具に過ぎない
だから欺き続けたんだ
言葉以外での愛なんて知らないんだから



小さな子供が、雪だるまが溶けていくのを見て悲しんでいる
薄汚れた雪を集めては雪だるまを修復し
もはや顔の原型など留めていないのに
雪だるまさんが可哀想だと
涙を浮かべながら

やがて陽の日差しに溶けていくのだ
あの健気にみえる小さな子供の心さえ

分かっていないんだ
原始的な偶像崇拝行動だ

きみが涙を流している
けれどそれはただの塩水に過ぎない
きみも分かっているはずだ
感情的な行動は意味を持たないことを
ただ溶けていくしかないということを

なのにあの子供は
雪だるまを修復し続けている
泣きながら何度でも何度でも
固体が液体に融解していく
それだけのはずなのに



液体と固体の境目となる温度は、
0度という記号として定められた
重要なのは言語ではなく、現象の絶対性だ
言葉が絶対なのではなく、現象が絶対なのだ
だからぼくは言葉という記号を信じていない



雪だるまが溶けていくのを
ただ眺めていた
涙でぐちゃぐちゃになり
もはや顔の原型など留めていないのに

本当は欲しかったんだ
でも、何が欲しかったのか
もう分からなくなってしまった
汚れたかったわけではないんだ
ただ、欲しかっただけなんだ



もし、二人で作った雪だるまを溶かさないように
何度でも、何度でも修復することで
きみを泣かせたことへの
せめてもの償いになるのなら

その時ぼくは
自分の精神の変わらぬ努力を宣言し
永遠を誓えるのだろうか


自由詩 永遠に溶けない雪 Copyright 結城 森士 2011-01-15 23:29:04
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