あのころはスターを目指していた俺。
番田
何でもない流れの中で飛び出していく
それは確かではないけれど 自分にとっては 確かだ
水の投げ出された噴水のように はっきりとしている
回転しているフラフープのように
自分にとって確かなものを探したいのだ
喫茶店の奥で息を潜めながら いつも そう思っている
描かれたものなど すべて 消失してしまった
井戸端会議の中の笑い話の一つにもなりはしない
それは少しだけ寂しいことのようにも思える
エレキギターを弾いていたのはもう遠い昔のこと
自分の事ではないように思えるのは 楽しい
何もかもが流れ出していくようで 素晴らしい
一人で寂しい歌でも歌っていたいものだ
カラオケの安っぽい伴奏に合わせながら
ポテトをありあまるほどに注文して コーラで 流し込む
あれは幸せだったものだった
あんな経験は もう あまりできないだろう
*
今はいつも一人で夜を過ごしている
浴びるようにして酒を飲んでいたのはいつだったろう
風呂に入るとそこに生まれる 微かな微笑み
誰かと一緒にいればよかったな
ツタヤでレンタルビデオを借りては 帰ってくる
缶詰の蓋を開けては一日が終わっていく
私はどんな人生を送ってきたのだろう
デジタル化されていく時代が私に死を迫る
タクシーに乗りながらラジオの音に胸を弾ませている
声や歌は時代が奏でる伴奏なのかもしれない
もう そこに 思い浮かぶことなど 何もなかった
*
財布も通帳も 何も残っていない
あるのは私の体と 外を流れていく 景色だけだ
思う人の場所も顔も思い出せない 名前も忘れかけている
JR山手線がビルの間を抜けていく様子が見えた
私はいつまでもそこに立っていたいと思える