夏の思い出
吉岡ペペロ
おじさんの葬式にいった
もう何年も無沙汰していたおじさんが死んだのだった
ぼくは棋士にはならなかった
おじさんはずっと独身だった
泣けてきた
幸せとはなんだろう
ぼくが決めることではないと思った
おじさんが決めることでもない
そんなものははじめからない
幸せを人生の基準にしてなるものか
おじさんの自転車に乗せられて
夏の将棋大会に連日かよった
おじさんは母さんの弟で独身でたぶん働いていなかった
ぼくの活躍は地元の新聞でも取り上げられた
<吉岡君の寄せはそれにしても凄い>
その記事はいまでも・・・もうなくしてしまった
おじさんの背中からハチミツの匂いがした
おじさんをお父さんと思おうとするゲームを
ぼくは道すがらひとりでしていた
おじさんだってぼくのことを
そう思おうとするゲームをしていたのかも知れない
ぼくは町景の過ぎるのを見つめながら
ハチミツの匂いをふつうに呼吸した