フクロ鼠
……とある蛙

地中深くに根差した
大きな球根のような欲望と
その真上の中空に漂う
ふわふわふわふわした
空中クラゲのような希望
地上に生えた剥き出しの古木の幹に
粘菌のようにへばり付いた渇望が
すべて同じ生物だと
つい最近 CSテレビに暴露されるまで
とんと無頓着に生きてきた

袋鼠の突然変異

森は暮れ行く年の夕陽を浴びて
古木の凹凸が濃密な深紅の
陰影を浮かべ、
古木にへばり付いた粘菌が
ぬらぬらと鈍く反射する
袋鼠は古木を慎重に這い上り
日没前に突然飛翔した
彼の四肢の間に広げられた滑空膜は
夕陽を透かして
多数の毛細血管で複雑な模様を写し出しながら
遠方の下草まで滑空する
着地した瞬間既に日は没し
彼の 異様に光る
両の目だけが闇夜に光る
夜こそ彼らの時間だ
欲望が異様に膨れた森の空間で
逼塞する。
逃れようともがく鼠は
森の樹木に絡まりついた
蔓のような正義に搦め捕られる
諦めるには早すぎる
黒い宵の口

袋鼠の夢は森の一番高い樹を越えて
黒い月に揺れていた。





自由詩 フクロ鼠 Copyright ……とある蛙 2011-01-04 16:18:19
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