影を貪る
山人

澱んだまなこが粘りつく液体となってずるずると年月を嘗め回している。あふあふと飯をさらい込み、ゲテモノを隅から隅まで食いつくし、寄生昆虫のように板にへばりついている。自己憐憫の色艶がどす黒く光り、ねばい体液をブロック塀に擦り付けている。年月の階段を下ると闇夜が底に広がり得体の知れない腐臭がしている。その腐臭の水面に身を預け黒光る体壁を沈ませ、とどまることのない念仏を唱え始めるのだ。腐臭のする泡ぶくをひとつひとつを嘲笑いながらぶすりぶすりと割っていく。中からは断末摩の悪臭が湧き出て、それを手に取り嗚咽を漏らしながら打ち震えている。体壁は徐々に裏返りそこから無数の菌糸が飛び交い辺りは壮観な菌が舞う。ぼこっぼこっと菌はキノコを立ち上げ体壁の向こう側内側脇、あらゆる壁面からずらずらと粘質のキノコを発生させている。やがてそのキノコを食い、朽ち果てるまで念仏は果てしなく続いていくのだ。もはやそこに思考や理性などあろうはずもなく、ただ引力に従って落ちてゆく臭い血液だけが再び発酵しだす。


自由詩 影を貪る Copyright 山人 2010-12-22 11:51:14
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