独白-変態のうた-
只野亜峰

 なんでしょうか。独白というものを書くのは実に久しぶりです。本来であれば、書き手が自分の作品に言及してしまうのは余り好ましい事では無い気がしますが、転がりだしてしまったものは自分の中でもどうしようもないわけで。ここは一つあえて言及しきってしまうのも一興であるかもしれないなぁと、そんな事を考えながら筆もといキーボードを持ち出した次第であったりします。そもそも長文フェチである僕には独白というスタイルが実にすっきり嵌りまして。結局のところは自己満足ではあるのですが、考えている事を出し切るにはこういったスタイルが自分的にはやはり一番しっくりくるのです。
 そもそもの発端である「変態のうた」に頂いたコメントに返事をしてしまっただけでも自分の中ではわりと失態だったのですが、タイミング良くその後に地獄のペチカさんが「詩を読む」というシリーズにおいて何故だか僕の作品を取り上げてくれたりで、何やら自分の作品が自分の意図を超えて一人歩きし始めたところに水を差してしまったような、そんな後悔の念が僕に筆を取らせているのかもしれません。全く持ってコメント返しなど慣れない事はするものじゃありません。そんなこんなで、下らない前置きはほどほどに自分の作品を語るという公衆の面前でボトムスをずり降ろすにも劣る作業に取り掛かりたいと思う次第であります。



――世の中には変態ってやっぱりいる。
――気の毒な人で、DNAが狂っていて。やっぱりアブノーマル。
――幼い子の強姦(ごうかん)がストーリーとして描かれているものは、
――何の役にも立たないし、(百)害あって一利もない。


  
 都青少年健全育成条例改正案に関して石原慎太郎都知事がこんなナンセンス事を言い放ったそうですが、そもそも娯楽文化が人間社会に対して何らかの利益や不利益をもたらすものであると考える事自体に何かしらの傲慢さを感じたりもします。そもそも昨今の性を取り扱う創作文化(いわゆるエロ漫画)に対する弾圧の根源がどこから来ているのかと考えると、コンビニにエロ本が陳列してある事が気に喰わない等という実に些細な嫌悪感がその根源であるわけです。そういった些細な嫌悪感を現代社会において深刻な問題となっている、実在する少年・少女に対する性的搾取を取り締まろうという一連の動きと絡めようとするからややこしくなるのです。近しい存在として槍玉に挙げるなら喫煙者の人格的尊厳そのものを全否定するような過激な思想に取り付かれた嫌煙者のようなもので、都政に携わる者がこういった極右的なダブロイド思想に感化されたり言及してしまう事はなんだか残念極まりない感じがします。
 さて、世の中には先の発言で槍玉に挙げられた小児性愛(ペドフィリア)の他にも様々な性的倒錯や性的嗜好があります。社会的に好ましくないであろう倒錯には他にも死体愛好(ネクロフィリア)や動物愛(ズーフィリア)等が挙げられますが、極端に言ってしまえば「繁殖を目的としない正常位以外のSEX」は全て「変態性欲がもたらす性行為の逸脱」であると捉える事ができるのです。それを踏まえて論ずるのであれば、小児性愛を持つ中年男性がポルノ雑誌を読んで興奮する事も、動物愛を持つOLがバター犬に奉仕させる事も、若い男女がフェラチオ等のオーラルセックスをする事も同じ範疇の出来事であると言えるわけです。少しフェラチオの話をしますと、日本というのは少し時代をさかのぼると非常に貞操観念の強い文化的基盤をもっていました。変態性欲や性的倒錯というのはですから悪しきものであったわけです。しかしながらもっと前の時代の日本においては同性愛・フェラチオ・自慰という行為は異常なものとして取り扱われてはきませんでした。それらが異常なニュアンスを持って語られるようになったのは西洋文化の流入、端的に言ってしまえばキリスト教の伝来と共に生殖を伴わない性行為を悪しきものとして捉える風潮に晒されてからの事でした。それらの行為が通常のものであるという市民権を取り戻して来たのは実に最近の出来事であったわけです。そもそも日本の風土というものは本来、性に関して非常に大らかな側面を持っていて「夜這い」が「強姦」とは区分けされて文化として定着していた事もありますし、神社の巫女などに処女性を求められるようになったのもキリスト教徒のシスターの影響が強いわけです。聖職者という意味で言うなら坊主である一休さんなんかはかなり性に関して奔放な生活を送っていたようですね。ですから、何を持って正常・異常を論ずるかは時代背景や社会的風潮の影響を当然考慮しなければなりませんし、簡単に自らの持つ性認識だけを持って他人を変態であると論じるのは大きく思慮に欠ける行為であると云わざるを得ないわけです。
 もちろん実在する青少年・少女の性的搾取というものは世界的に厳しく取り締まられてしかるべきですし、実際に性的搾取を行おうという人間は社会的に弾圧されてしかるべきですが、嗜好そのものは否定されてはいけません。日本にはご丁寧にも憲法に「表現の自由」なるものが規定されていて、この原則があるからこそ表現者は各々自由に表現したいものを表現できるわけですが、それを踏まえると性的倒錯を取り扱った表現は悪しきものであるという論評はやはり非常にナンセンスです。出版される書物にポルノの枠組みを広げてR指定をかけたいだけなのであれば、わざわざ性癖の是非にまで言及する必要はありませんし、それを成さねばならないという事が逆にこの法案の運用の危うさというものを印象づけているようにさえ思えます。もちろん一般にポルノ漫画と理解されるであろう書物をアダルトコーナーに移動させようという試み自体は悪くない事だと思いますし、これからの社会においては環境を整備していくことが好ましい案件であるとも思いますが、それらが正しく運用されていくかどうかはやはり厳しく論じていかねばならない問題であるでしょう。少なくとも運用に関して運用する者の恣意的な解釈が混入できてしまうような事態は避けるべきです。そいうった状況下において石原都知事があくまで条例の成立を急く姿は政治的な戦略や意図を臭わせるだけで、正直な感想を言うのであれば見苦しさすら感じたりもします。


 さてはて、そんな小難しい話はどうでも良いのです。個人的に「変態のうた」はそれほどダークなイメージを持って書いたものではなく、それこそザ・タイマーズの「FM東京のうた」や「憧れの北朝鮮」のような軽快なものであったりしました。と、言いますのも。変態のうたは石原氏の発言を頭の中でどうにか皮肉れないかと復唱してるうちに音数とかがなんとなく揃ってしまっただけの言葉遊びのような意味の無い作品であったわけです。障子を陰部で突き破ったり女の子を姦して殺したりという描写も小説家である石原慎太郎の作品がそういう話であると伝え聞いたので、どうせなら好々爺を変態の地平まで引きずり降ろしてやろう等という面白くも無い試みに過ぎません。氏の書いた小説などというものは毛ほどの興味も引きませんが、おおかた太宰治を大幅に劣化させたような退廃的なロマンチズムを賛美しただけの面白くも無い小説なのでしょう。強姦や殺人などという反社会的表現を作品の中に組み込んでおいて、いやいや私のは文学的表現だ等と語るのであればなかなかにナルシズムの強い気の狂った老人であります。しょせんは俳優である弟の人気で成り上がっただけの自称文学者に過ぎなかったのでしょう。知りませんけど。
 ですので、変態を自称する人間に対して否定的な見解を込めたつもりも、社会の中で生きる変態である事を後ろめたく思う強迫観念的な自己形成を込めたつもりも無く、しいていうのであれば変態である事の狭義といいますかそんなものが込められたらいいなぁ等という事は思いはしましたが、変態は結局ただの変態であって肯定も否定もされてはいけないだろうと思い直して、結局なんだかんだでよくわからないものに仕上がったわけでございます。そういった意味で言うのであればニュアンス的にはザ・タイマーズの「トカレフ」に近い出来栄えなのかもしれません。個人的にはホクホクな感じです。
 ただ、そもそも何かを表現しようなんていう人間は変態であってしかるべきだと僕は思ったりするのです。文学を志した人間なんていうのは大抵人間としてどこかしら欠落しているもので、太宰治なんていうのはその際たる存在ですし、宮沢賢治も生涯童貞だったなんて話が有名だったりします。絵にしろ文学にしろ歌にしろ欠落も逸脱もしていない一般人の書いたものなど何の面白みもないのです。そう云った欠落や逸脱を込めて隠しこむからこそ陳腐な文字の羅列が時に強烈な色香を演出したりするのです。ですから、かつて文学者を名乗りながら今となって健常者を自称する石原の耄碌爺は確固たる自己というものを持った事の無いまま歳をとってしまった非常に残念な生物なのでしょう。閉経したモンペレの婆どもとイチャこいてるのがお似合いですね。ざまあみやがれってかんじです。僕はモンペレ婆とイチャこくより黒木瞳さんの出てるドラマでも見ながらホクホクと彼女の美貌に酔いしれているほうが好きなので失楽園でも見る事にします。

 さてさて、面白くも無い独白もそろそろタイムリミットとなりました。他にも色々と書こうと思った事はあった気がしたのですが僕の胃袋はそれを晩御飯より優先させる事を許してくれそうもありません。こういった随筆にもやはりある程度のプロットというのは必要なのかもしれませんね。次回があるのなら参考にしようかと思います。それでは長らくお付き合い頂きありがとうございました。全人口の割合の10割を占める変態の一人として私、只野亜峰がお送り致しました。あなたの送る変態ライフがどうか素晴らしくアブノーマルなものでありますように。


散文(批評随筆小説等) 独白-変態のうた- Copyright 只野亜峰 2010-12-19 18:52:18
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