おもてなし
たもつ

 
 
友だちの家に遊びに行った
門のところで、久しぶり、と挨拶されたので
久しぶり、と答えた
もてなしてくれるのだろうか
和室に案内されて
お茶とお大福を振舞ってくれた
正直な話、あまり好きな食べ物ではなかったけれど
断るのも失礼なので
美味しいお大福ですね、と言って全部食べた
友だちは満面の笑顔で今度は羊羹を出してくれた
羊羹も好きではなかった
でも久しぶりに会った友だちを悲しませるのもあれだし
やはり残さずに食べた
その後にも
ショートケーキ、モンブラン、ドーナツ、お寿司、スパゲッティ等々
出てきた菓子や料理はすべて好きではないものばかりだった
嫌いではないものは、お茶とコーヒーの飲み物だったけれど
何か変な味がした
もしかして、この人は友だちではないのではないか
家を間違えてしまったのではないか
かつて苛めたことがあって、その仕返しをしているのではないか
いろいろな思いが頭を巡り、顔をまじまじと見ても
友だちは友だちのように、不安になるくらいの満面の笑顔で
何より思い出話はすべて通じたし
昔どこかで会った気もする
ご飯よ、と女の人の声がすると
友だちは人形の私を放り出して
部屋を出て行ってしまった
食べ物はすべて粘土で、液体は絵の具を溶かした水だった
口の中にべたべたとした粘土と絵の具の味だけが残った
もちろん、本物のお大福もスパゲッティやらも食べたことがないので
それらの味を知らないし
好きなものも嫌いなものもあるわけがなかった
おままごとをしている時だけ
私は私の人格を与えられるのだった
今度で何度目の私だったのだろう
意識が薄れていく
これからすべてを忘れる
またおままごとの機会があれば
新しい別の私が与えられるのだ
 
 


自由詩 おもてなし Copyright たもつ 2010-12-18 18:26:12
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