終わる恋
はるな


久しぶりに恋愛をした男の子は年下で、シャネルの匂いがした。
しっかりした肉におおわれた太い骨。
しりあってから十五日めに触れて、
触れてから六日間はなれなかった。

夜中に逢い、朝がたまで遊んで、昼間に眠る。
夕方に仕事へいって、また夜中に逢い。
おさない罪みたいな遊びかた。

しりあってから二十二日めであるところのきょう、
朝はやくの新幹線で、かれは遠くへいった。
品川まで手をつないでいった。
ゆうべ、かれとかれの友人たちと、わたしとで飲んだ、
たくさんのアルコールは胃袋で海になって、
満員電車を静かな波のなかに沈めたね。

世の中はいろいろな種類の海であふれている。

悲しみよりも眠たさで目を腫らして、
スーツの群れのなかでコーヒーを飲んだ。
年下の、シャネルの匂いのする男の子。
手の中でどんどんさめていくコーヒー。
わたしたちは、ほんの一時でも同じ気持ちでいられただろうか。

かれはさみしいと言うけれど、
わたしと海をわけあってはくれない。
改札で手を振ったあと、
きた道をひとりで戻るさみしさを想像してはいない。
そしてわたしも、
とおくへ行く彼の決意と悲しみを想像できはしない。


じゃあなぜ触れたの


言わないで、手を離して、吸いこまれる切符、
駅員の規則ただしい動きと、埃っぽいスーツの群れ、
首もとにのこるシャネルのにおい。
わたしたちの七日間と、去っていく年下の男の子。
衣服に包まれた骨のかたちを、うしろすがたに何度も思い浮かべていた。



自由詩 終わる恋 Copyright はるな 2010-12-14 12:12:14
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