インサーター
salco

1階のショウ・ルームには巨大なマシーンが
腹這う竜さながら何台も展示されている
合衆国とドイツの工場から空輸された
これら封入封緘機は全国津々浦々に納品され
封入された郵便物が各世帯に届く仕組み
人工知能と油圧式のベルト・コンベアーが秒速で
用紙を送り出し
畳んで封入し
糊づけする度に
仕置き棒で鋼鉄の象をぶっ叩くような音が響く
バン!バン!バン!バン!
だけど悲鳴と溜息は、既に封筒の中
それは請求書という
死ぬまで切れない生活の鉄鎖
代わりにシャリとネタを入れたらどうだ?
たちまちマシーンが壊れてしまう
花をセットして1輪ずつ入れたらどうだ?
花弁も茎も潰れて飛び散ってしまう
三千院の紅葉でも1枚入れたらどうだ?
やはり褪せた行く末を見るだろう
それなら夢を入れたらどうだろう
開けた途端にみな泣きながら寝入ってしまうだろう
それなら冬には団欒の追憶を
春には優しい面影を
夏には海の轟きを
秋には愛の囁きを
誰もが失くしたものを送ってあげればどうだろう
けれど取り返しのつかない思いを甦らせるのは
残酷以外の何ものでもない
バン!バン!バン!バン!
剥き出しの心が目まぐるしく秒速で破砕して行く
魔法なんかどこにも無いから大人には
請求書しか届かない


自由詩 インサーター Copyright salco 2010-12-13 21:34:13
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