遠藤杏


犬が笑った

そんなことは思い込みかもしれない
それでも事実目に見える形でしか説明されない多くのものを投げ捨てるけど
不確かな現実はうやむやなまま流された
犬は僕を見ているのではないかもしれない 
だいたい僕は何を求めたんだろう
欲求というものは
一体僕をどうやって支配したのだろう
困惑した僕の顔が球体に白と黒と赤が混ざり合って映された
確かに僕は実在したままだ

僕は犬の内臓の形を掌の表面に写し取るようになぞった
一瞬にして血の温度が広がり
僕の手もゆっくりと呼吸を始める

手足をばたつかせて
空中を泳ぐように肉体を放り投げた犬は
天井をじっと見つめると
ふっと視線を僕に戻して何もかも悟ったようにゆっくりと笑った

僕は確信した
不確かな欲求は僕の全身を包み込み全てを肯定した

奪い合っては満足し手に入れては消去する
条件反射のような感情の早さ 

あの犬は死んだよ
潤っていたあの舌も乾いて黒くなったよ
僕は
僕は
僕は
期待してなんかいない 


自由詩Copyright 遠藤杏 2010-12-13 01:29:46
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