かわりんぼう
……とある蛙

この子は生まれた時から変わっていた。
どう変わっていたかってのは
ちょっと目に分からないくらい変わっている。
何が楽しいのか、絶対に笑わない。
笑わないってのが、また、一つの何なんだが
ニッとする。微笑みとは違う。
口を横に開き、ニッとする。
ある種精神疾患ではないかと医者に見せたこともある。
医者の答えはNOだ。

この子は生まれた時から変わっていた。
どう変わっていたのかってのは
彼自身をじっと見つめても分からない。
彼は風を見つめる。
風を見つめて
春なら花びら
秋なら落ち葉
それらを目で追いながら
ボスは風だと呟く。
そして、ニッとする。微笑みとは違う
口を横に開き、ニッとする。

この子の一日は窓から眺める景色から始まる。
どんな景色かってのは
彼自身が見つめている対象によって異なる。
つまり、毎朝彼は違う景色を眺めているのだ。
彼は虫を見つめる。
漠然とした虫ではない。
虫の顔を見つめているのだ。
その虫は愚連隊のような顔をしていて
彼に因縁をつけようとしている
そこで彼は虫を殺しにかかるのだ。

窓の外の虫が
何処ぞに消えて行くまで彼は睨みつける
一頻り虫を睨んだ後
口を横に開き、ニッととする。
彼の髪は風のない室内なのに
何かにそよいでいる。
その空気はモスグリーンの煙だ。

彼はまたニッとする。
彼はまたニッとする。


自由詩 かわりんぼう Copyright ……とある蛙 2010-12-10 12:27:01
notebook Home 戻る  過去 未来