今宵 演奏会
砂木

センスが凄いんだよ と嬉々として言う
十九歳の甥は トロンボーンに夢中
目標にしている人もいるらしい
学校時代は吹奏音楽一色で
働きながら地元の楽団で演奏するという道を
まっしぐらに歩んでいる

たまにしか会わない おばちゃんである
若い人と何を話していいのかと迷う所であるが
甥の場合 音楽の話で間違いがない

正直 私に 音楽の知識はないのであるが
少し話題を出すと 途端に笑顔になり
興味のある事を惜しげもなく話してくれる

そして今宵は 楽団の演奏会
少しの間だが ソロをまかされてアレンジしていた甥
その晴れ姿をひとめみたくて 残業帰りに立ち寄った
満員ではなかったが 空席が目立つほどでもなく
十代から六十代までの団員の方々が舞台で演奏をしている

父母の隣りに座り 私は演奏よりも甥を見ていた
大丈夫かなという気持ちの方が音楽より強かった
しかし 各団員の人々が練習を重ねた音の前に
いつしかゆっくりと音楽を受け入れ
仕事でのつらかった事なども癒されて
演奏会という滅多に行かない楽しみに くつろいで笑った

甥のソロは 最後の方だった
アレンジにはセンスがでるそうで やっと決めたと言っていた
もし その音が正解でも間違いでも 私にはわからない
やっている人でなければ わからない違いだと思う
私にわかるのは 決死の意気込みで楽器を手に舞台の前にでた
十九歳の若者の ソロのたったワンフレーズの演奏が
あなたの父母や祖父母 そして私にとって歴史的な喜びである事
音が楽しい 音が嬉しい 音が泣いてる

うまいかヘタかよくわからないけど などというと
音楽とは何かなど勉強不足と ひかざるおえないけれど
あなたが本気で力一杯した演奏に拍手を贈る気持ちは
初めて 生まれたてのあなたに出会った時と同じ
音楽の海の中で どこまでも泳いで 奏でて







自由詩 今宵 演奏会 Copyright 砂木 2010-12-05 10:59:22
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