運ばれた先で待っているもの
石川敬大




 すれちがったトラックには
 零れるほどのいのちが
 ひしめいていた

 通勤車両ではこばれる
 ひとみたいに
 いっせいに体をゆらしていた

 くろい体毛
 くろい顔
 ツノをはやしたものが
 はこばれていた

 はこばれた先で
 順々に屠殺されるのだ


  屠殺されるとき
  ひと声たかく鳴くのだろうか


 それがどこで行われるのか
 どんな工程であるのか
 ぼくは知らない
  ―― だが
 片棒をかついでいるのはぼくらだ
 間接的に捕食しているのはぼくらだ


  知らないことは
  罪なのだ、きっと


 ひしめいて
 体をゆらして
 この世の最期の街なみを映している
 ひとみがぬれていた


  景色がにじんだ


 黒目がちの
 おおきなひとみだったんだ

     *

 あぁ
 まただ
 こわれてゆく
 耳のなかから
 金属音がきこえてくる






自由詩 運ばれた先で待っているもの Copyright 石川敬大 2010-12-02 22:00:15
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