そのネコは
アズアミ

そのネコは知らなかった
じぶんの名前すらも知らなかった
何度か名前をつけられたような気もするが
そのどれもが耳に障って
じぶんの名前だとは思えなかった

ある夜、六丁目の方角に流れ星が落ちた
急いでその場所に向かうと
すでに多くのネコが食い散らかして
おこぼれに預かることはできなかった
あきらめて振りかえると、
植木鉢の中に
流れ星のかけらが刺さっているのを見つけた
よるのやみの中で
星のかけらに映った自分の姿をみて
そのネコは愕然とした
白い、と思っていたのは手足だけで
目のまわりに、さえないブチ模様があったのだ

次の朝、おばあさんが近づいてきて
昨夜の流れ星の話をはじめた
南の空に向かって
むかし亡くなった息子の名前を呼んでいたら
流れ星が落ちたのだ、と言った
おばあさんの口調は
これまでの
どんな声色よりも嘘がなく
なにより、目のすぐ横に
自分と同じブチ模様があった
その日、そのネコは
ノボルとして
あたらしい生をうけた


自由詩 そのネコは Copyright アズアミ 2010-11-25 00:44:25
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