そのひと
……とある蛙

楡の巨木の根元に深くて暗い穴、ジメジメとしたその穴からボーッと発光した球体が風に揺らいで漂い出てゆく。枝先の梟の眼の光りが青く輝く。闇夜のはずだが森のそこここに光る小動物の眼を気にしながら、巨人はゆっくりと起き上がる。頼りは漂う球体の明り。頭上の枝はぬらぬらと濡れ、枝から垂れ落ち、自由落下する夥しい腐敗臭のする液体を避けながら球体の進む方向に走りだす。空は見えない。すべては森の漆黒の絨毯に覆われた屋根に隠されている。
 暗闇の中の湿度を感じてただ発光する球体を追って走る。しばらく走った先は森が偶然途切れた草原で夜の空が突然頭上に現われた。
その空に向かって発光した球体はふわふわふわふわ上って行く。天国は上にあるのは間違いないと 根拠無しに断言したランボーは偏見の塊で、絶対にゲリラから仲間を救えない。斜めに感じる黒い月の視線はキラキラ沈む蔭のようなチャフ。チャフに遮られた球体の光を見失わないよう走り続ける。
 走った先に大きな樹、闇の中に屹立する巨大な幹、空を覆う枝々の透き間から零れる闇、天を指さし英雄伝説の週末、発光体を飲み込む巨人の視線の先に黒い光線。
目眩ましされている巨人は だいだらぼっち、まつろわぬかみの末裔、海を目指して目覚めては見たが、二千年ぶりの杜は煤けた暗黒の照明があたりを照らしている。二千年前、彼が作った山は削られ、彼が貝を食べた海は埋め立てられ、動けなくなった。
 海はゴミのような人に飲み込まれ巨人は咆哮する。巨人は涙する。巨人の咆哮は大地に響き渡り、巨人の涙は豪雨となって大地を洗い流す。
大惨事の始まり





自由詩 そのひと Copyright ……とある蛙 2010-11-23 11:41:27
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