クズ鉄拾い
ホロウ・シカエルボク





瘡蓋の縁取りを爪で引っかいているうちに滲み始める薄い血の色みたいな目覚めだ、軋んだ脳髄は明け方の有り得ない夢の感触をリピート設定で再生して水晶体には霧のような濁りがかかる、ああ、ああ、目に映るものすべてが俺から身を隠そうとしているかのようだ、解像度が湾曲している、解像度が…それ以上の吸収を頑なに拒む胃袋みたいに…性急な速度で神経を駆け巡る信号は病んだ世界の再配列を試みようと躍起になってる稲妻みたいで俺は感電を装い痙攣してみせるが慢性的な偏頭痛持ちみたいなこの部屋の架空のオーディエンスを満足させることはついに出来なかった、だったらどうだっていうんだね…熱湯が注がれるのをくつろいだ調子で待っている即席コーヒーの粒たちは数グラムでキロ四方を吹き飛ばす爆弾のように見えなくもない、爆死の幻視…肉体の粗い分解、四散した俺は死体か破片か?目撃者には好きな方を選んでくれと誰でもいいから伝言を抱いておいてくれないか、そこにはサインも拇印もない…血まみれの路上でもしか思い出してくれたらそこらへんで呆然としてる誰かに伝えてくれたらいい…ちょっと厳かなパーティー・ゲームみたいなノリでさ―細かい部分を間違ったって構いはしないよ、どうせ俺には修正する意思も手段もねえ…湯気を吐くコーヒーを飲み込んで爆死の俺を葬った、爆弾で死ぬ可能性…タクシーに跳ね飛ばされる可能性とどっちが高い?パラノイアに刺殺されることと比べたら―そうだぜ、狂った理性は意外と現世に蔓延している、食らいついたら二度と消すことが出来ないウィルスみたいにさ、食らいついて離さないんだ、考えをシフトすることが出来ないからさ、一度きりの実行プログラムみたいなものさ、一度起動したなら、寿命が尽きるまで同じプロセスで動き続けるんだ、それはまるで思考を持った機械のようだぜ、進化のプロセスは命あるものにしか有り得ないものな…そんなやつらの牙には陰鬱な邪気が絡みついてる、そいつが身体に浸透するまでやつらは食らいついてくるのさ、浸透しないことだってあるってことすら、やつらは考えやしないんだ―死の世界、死の可能性…それにはある程度の変化はつけることが出来る、ここまでの妄想みたいに…殺したり出来るし、殺されたり出来る、もしもどこかの馬鹿のせいで、世界大戦なんかがまた始まったとしたら、俺は自分が死なないために誰かを殺すだろう、迷いなくさ―俺はとめどなくかき回す、妄想と、まだ湯気を上げている即席コーヒーを…飲み干してしまわなければならない、こいつが冷えてしまわないうちに、こいつが存在の意味を変えてしまわないうちに―手順が存在するものには必ず、緩慢な時間的制約が存在する、なにかが湯気を上げているうちに、熱を持っているうちに…そこには拾い上げることの出来るなにかがある、くみ取ることの出来るなにかが…そこに意味があろうとなかろうと、拾えるものは拾っておくんだよ、それがその日に出来る最良のことかも判らんぜ…





自由詩 クズ鉄拾い Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-11-17 16:36:36
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