寒雪



居間に
恭しく飾られている
モノトーンの写真
声も仕草も知らない
かろうじて
自分と父親を繋ぎとめていた
血脈以上の何か


十代の頃
鏡に映る自分が
架空の登場人物めいて
自らの脳に刻まれた時期があった
歩けども歩けども
踏みしめる大地が
不安な足元を絡め取る
手首に当てた
深紅の一直線な傷跡だけが
世界の扉を開く鍵


父の十三回忌
久しぶりに顔を合わせる
目鼻の位置がわからなくて
答え合わせに苦労する
大勢の親戚たち
菩提寺に向かう車の中
親戚は鋭い視線を投げかけながら
柔らかく静かに呟いた
お前は本当に親父にそっくりやのぉ


そうなんだ
他人事のような返事とは裏腹に
頬を伝う暖かい涙
長い旅が終わったような気がした


嬉しかったんだよ


自由詩Copyright 寒雪 2010-11-17 13:30:32
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