何と言っているかよくわからない
プテラノドン

販売機の釣り銭受けから硬貨が転がり落ちた。女は拾う素振りも見せずに
歩道脇の排水溝に吸い込まれるのを見届けるだけだった。
そしてマンホールの下の下水道には、音楽家たちが便器に流した楽譜が、
浮かぶか沈んでいる。マンホールの下にいる男は
拾い上げた硬貨を空箱にしまい込むと、偉人たちの遺産を元に
バグパイプよろしく配水管に息を吹き込み音楽を奏でる。

ドブ鼠はそのメロディを憶えるために身体が灰色になるまで鳴き続け、
メロディの粒子や分子を携えて、再び地上に這い出た。
そのせいか、近頃野良猫たちの鳴き声がおかしいと子供たちは訴えるが、
大人たちは会議を繰り返すことに忙しく耳を貸そうとしない。
数年後、ーいや、数年前だったかもしれないが
青少年有害物を販売していると認知された、かの自販機は敢えなく撤去され
女は町から数十?離れた所まで車を走らせなくてはならなかった。
そこに向かう間、女は車内から窓の外に語りかけていたが、
何と言っているかよくわからなかった。




自由詩 何と言っているかよくわからない Copyright プテラノドン 2010-11-15 01:02:38
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