花言葉
殿岡秀秋

「見つけると幸せになれるのよ」
近所の女の子がいう
四つに分かれた青緑の草を数本持っている
これでわたしは大丈夫だわと
少女の眼は語る
ひとつわけてほしいが
胸の前でしっかりと葉を持つ少女にいいだせない
ぼくは自分で見つけなければならない
千住神社の能楽堂につづく道へ
勝ち誇ったようにスカートをゆらしながら
少女は去る

神社の裏手の草むらにしゃがむ
どれもこれも三つ葉しかない
ぼくの未来はどうなってしまうのだろう
胸にクローバーの形の穴があいて
秋の風がとおりすぎる

オフィスの昼休みに
子どものころの願いを叶えたくなって
雨上がりの日々谷公園の心字池のほとりにうずくまって探す
草の中に五つ葉があって
露を涙のように乗せているのをちぎる

大人になった少女が現れる
「まだ探しているの」
サラブレッドのように伸びた脚をスカートから出して
うずくまるぼくの前に立つ
ぼくは掌をひろげて
濡れている五つ葉をみせる
「それはクローバーではないわ」
「きみは幸せになれたの」
女は当然という顔をしてうなずくと
噴水のほうへ
馬のように腰を動かしながら歩いていく

手の土をはらって
何か聞き忘れたことがあるような気がして
小音楽堂の脇を女の後を追って歩く
大きな噴水が風になびいて
鳩が飛び立ち
人影が消えていった







自由詩 花言葉 Copyright 殿岡秀秋 2010-11-14 22:18:39
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