マザーズダイパー・・・糞迷宮
ハイドパーク

激しい雨が降っていた
土曜の昼下がり
娘を塾に送る車中で
便意をもよおした

「お父さんお前の塾のトイレ、借りてもいいかな。」

「絶対ダメ、却下。きもい。」

年のせいなのか
若き日の男色行為のせいか
僕のバタフライバルブは
待ったなし
したくなったら
すぐ緩む構造だった

塾に着くと娘は
すばやく降り
「うざい、行け。」って
力任せにドアを閉めた

仕方なく家路についたが
すでに限界が来ていた
意識が遠のいて行く
なぜこんな目に遭うのか

猛烈な雨の中
苦し紛れに
アクセルを踏んだ

出る 出る 出る 出る 出る

もやの中に
白い建物が見えた
引きずられるように
その駐車場へと入って行き
来客用スペースに止まった

シートから立てなかった
金縛りにあっていた

その時
お尻に風を感じた
僕の下水管から吹く
生温かい滅びの風だ

初弾は蛇の頭ぐらい
飛び出してきた
少し圧力が下がった気がした
動ける
よしここで止めるんだ
止めてみせる
僕は腰を浮かせた

ああ
止まらない
アア
バタフライバルブは
完全に決壊した

次から次へ
いやらしい音を立てて
汚臭のする半固形物が
パンツの中に溜まっていく
同時に僕の尊厳が
崩れていくのだ

ほとんど出したところで
降りしきる雨の中
外に出た
いきなりずぶ濡れになり
さざんかの生垣に飛び込んだ
少し泣いた

すると非常ドアの影から
一人の老婆が
おいでおいでと
手招きをしていた

垂れ下がったズボンを揺らし
彼女について行った

部屋に入ると
僕はトイレを借り
後始末を始めた
幸いにもパンツの
タイトな形状と
ヒートテック素材のせいで
外には漏れていなかったが
ズボンのその部分には
汚いシミが広がっていた

パンツを脱ぎ
裏返して
汚物を便器に捨てていると
パシーンと
ケツを叩かれた

「よしお、このウンコたれが。」

老婆だった

「こっちに来い。」

彼女は僕を風呂に連れて行った

「つらかったやろ。悲しかったやろ。」

柿渋石鹸で隅から隅まで
念入りに綺麗にしてくれた
排水溝に昨日食べた
にんじんのカス混じりの
便が溶けて消えていった

老婆はパンツまで
洗ってくれて
おまけにズボンのシミも
全力でふき取ってくれた

「よしお、次はいつ来るんや。」

「おかあさん、またすぐ来るよ。」

僕は泣きながら答えた

手渡された
大人用オムツを
キュットはいて
その白い建物を後にして
何食わぬ顔で
娘を塾に迎えに行ったんだ

「僕は、よしおじゃないけどね。」

後日御礼に行くと
そこは介護マンションだった
管理人さんに事情を
ハンブン
説明して案内してもらった

部屋に着くと
「ここはもう半年、誰もいないよ。」
との事

鍵を開けてもらい
中に入ると
がらんとして誰もいなかった

ただ
トイレにはかすかに
僕独特のウンコの
においが漂っていたし
お風呂の排水溝には
すり減った柿渋石鹸が
ビッタリ
へばりついていたんだ


自由詩 マザーズダイパー・・・糞迷宮 Copyright ハイドパーク 2010-11-12 18:33:47
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