大内峠から
……とある蛙

大内峠から徒歩で
大内宿の街道往還に出たとき

秋とは言え、紅葉も落ちかけの季節は
旅人の心も体も
芯から萎えさせ冷たくさせる。
街道沿いの落ち葉を踏み締め
漸く視界が開けたところは大内宿
ゆるやかな傾斜の下り坂に
茅葺の宿が立ち並ぶ

旅人は心底ほっとする。
何度も通った南山通り
それでも峠越えは一苦労。
日光今市までもまだ遠い

山々の紅葉はすでに朽ち欠けようとしていた。
紅というよりは山の頂きまで茶色の山襞
峠を越えて程なく
日没前に宿場にたどり着いた旅人たちは
一様にほっとしている。

このあたりは山々に囲まれており、
冬はとことん冷える山裾
秋とはいえ夜は冷え込み、
山中で迷えば死と隣り合わせ
とても野宿ができる季節ではない。

この宿場では旅人がどうしても食べたい名物ひとつ
ネギの添えてある蕎麦
この宿場町で供される高遠蕎麦はネギ1本が添えてある。
長ネギを箸代わりにして蕎麦を啜る
ネギ1本噛み締めて少し多めの蕎麦を啜ると

身体が
ぽかぽか
ぽかぽか
ぽかぽか暖まる。
ついでに心も暖まる。



子安観音堂から眺める宿場町
ゆるい傾斜の坂道に沿って茅葺きの屋根が続き
山間の宿場として 往時の賑わいが窺われる。

ここを通ったのだ。殿様も会津の米も



自由詩 大内峠から Copyright ……とある蛙 2010-11-10 12:15:51
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