ヴェルビューより / ****'04
小野 一縷


白昼 気だるい午後
軽く眩む ひと時を越して
背任罪に食い込む技法で
偽証罪に刷り込まれる詩句を素描


快楽とは 
交感神経を複雑に甘い切れ味で
繊細に光速で往来する電気信号をいう
肉体反応として 
四肢は細かく震え
皮膚は頭皮までも鳥肌が立ち
歯痛頭痛腰痛膝痛筋肉痛全ての痛みは消え去り

心は そう 常に
恨み 妬み 怒り 失意 悲観 絶望に
満ち溢れる この 心は
それらを 鼻で笑って 大らかに 赦す


−ああ私という人間にも赦すという機能がまだ眠っていたか−


心臓が 一段 回転を上げた
震動が生む波は静かな熱を帯びた感情の起伏音
それがいつも通り 虹色に広がる 輝く音波を生む 
奥深く暗い心泉に七色の波紋が広がってゆく

その彩が広大な心闇の表面張力から零れると
塗り潰すことで窒息死滅させたはずの不安が
刷毛の筋 色と色の隙間から
昏倒間際の意識を奮い起こすため
耳鳴りを模した警鐘を 遠慮がちに響かせる


妄想とは
障害と健常の境界面に映る
こちらの向こう側で嘲る口の厭らしい影絵
化学的に構築された自己愛の破風を脅かす そして
単純で明確な嫌悪罪悪感の力場に通じる古びた小道から
未だ生々しく淫猥に 優越感が伸びてくるのが見えて吐気

正常と異常の均衡を執る 精神の天秤の 揺らぎ
手に 頬に 額に 冷たい 波 飛沫
その波間を越える手際の良さが酔いの漕ぎ手には求められる


「Kさん、以前は何のお仕事を?」

「船乗りですよ。今も、こうしている間も。」


波越のしくじり 転覆 不明
自我は忘れられることに酷く脅える
脂汗を 涙を 嗚咽を 小便を 漏らし 抵抗する
それらを根こそぎ押し流す分厚い悪寒の津波
悲劇 その凄まじく おぞましい寒気も 
また楽しめるだけの耐性が この体には根付いている
甘美な蜜で 血肉を 極限まで 狂おしく育んだから

波の あと 静か
眩暈による色彩変調の終わった カンバスには
1ミクロンの 黒点すら 無い
白い砂浜 白い海 白い空が 描かれて


−真白のカーテンが揺れる風の静かな場所が好きだ−


整然とした白の基調 むしろ 白以外不自然な ここへ  
望むべくして 冬に


「Kさんは、その窓からいつも何を見つめているんですか?」

「ええ、この眼と外の狭間にあるガラスを見ています。」



最近では廃人の振りが 随分と上手くなった







自由詩 ヴェルビューより / ****'04 Copyright 小野 一縷 2010-11-05 19:46:14
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