little bit little
Akari Chika
ほんのちょっと 甘いモノが欲しいだけなのに
それが何なのかぴたりとは分からない
それはチョコレートではなく
クッキーじゃない
カスタードも 粒あんも マカロンも違う
小さな頃
ミルクに入れ忘れた
ほんのちょっとの砂糖
それが今 私のいちばん欲しいもの
欲しいものは欲しいって
思った瞬間に言わないと。
“すべてのものは流れ去るんだ”って
頭に叩き込みながら生きてきたんでしょう
何故なの
それでも
私が今いちばん欲しいのは
あのとき
ミルクに入れ忘れた
ほんのちょっとの砂糖
もっとあの一瞬を
愛してあげたかった
こんなに早く大人になるなんて思わなかった
“20歳を過ぎると1年があっという間だよ”
そのセリフ
何べんきいた?
私が会う大人は時間の話ばかり
何故なの
それでも
私が今いちばん気にしているのは
腕時計の針
カレンダー
電子レンジの 残り何秒
“上手に”“賢く”“効率的に”
限りある時間を友好に使いましょう
友達になった覚えはないけど
時速や
光速の
話を聞いた
私たちの胸の痛みには 役に立たない 理論だった
一言 かなしいって
言うだけのために
何年も
苦しんでる人がいるんだよ
“人は産まれたときから 死に向かって生きている”
そう刷り込まれて生きてきた
だから後戻りしちゃいけないんだって。
だから私は幼い頃の私に
砂糖を差し出してあげることができない
ほんのちょっと
ほんのひとつまみの
砂糖を
ミルクに入れてあげることができない
代わりに 少し 涙を流す
今がいちばん大切なんだって
できるなら私も声高に叫びたかった
何故なの
それでも
流れ去ってしまったものすべてに
“待っててほしい”と
声をかけたくなる
あの一瞬を 愛してあげるよ、と 言いたくなる 嘘でもいいから
“おかえり”“ただいま”
遅かったね
時を遡るのは大変だったでしょう
ありがとう
待っていたよ
これから先は 今をいちばん大切にして生きていってね
あの頃の
私がすごく 欲しかったもの
それはたったひとつまみの砂糖
ほんのちょっとの 甘いモノ