結界を出入りするもの
石川敬大




 死んだら二十八グラム体重が少なくなるって
 それがひとのタマシイの重さらしいよ
 と、どこから聞いてきたのか
 娘が言う

 父はおもう
 タマシイに重さがあるなら
 物質を通り抜けるのはおそらく困難
 マンションに住む子どものところにゆくのも
 エレベーターに乗らなくちゃゆけないじゃないって

 タマシイって詩に似ている
 目にみえない意味のようなもの
 触れられない言葉みたいなもの
 感じられるひとにだけ存在する意識体の/言葉
 の、ちから
 だれかとのダイアローグ
 でもそれってどこへ消えてゆくのだろう


 母が死んで
 しばらく
 部屋に気配があった


 濃厚な気配がただよっていたんだ
 さまようっていうのは
 タマシイに重さがあるからどこにも行けなくて
 詩のように浮遊している状態を指すのかもしれないね

     *

 中途採用がきまって
 京都で暮らさなくちゃならなくなった
 ぼくが
 家内を迎えにふわふわ
 と、洛陽か長安の、曲がりくねった路地をさまよっていた
 けさの夢みたいに
 あのとき
 ぼくはだれかの詩魂であり
 だれかのタマシイだったかもしれないのだ


 ぼくはおもうんだ
 詩も
 二十八グラム
 の、重さなのかもしれないって






自由詩 結界を出入りするもの Copyright 石川敬大 2010-10-31 13:40:22
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