マーキング イエロー
ハイドパーク

ストレスと
前立腺肥大のため
頻尿になっていた
一時間に5回は
トイレに行きたかった

冬に桜の咲いたある日
地下街を歩いていると
いつもの尿意を感じ
感じるとともに
すでに我慢できなくなっていた

目に入った喫茶店に
チャックを下ろしながら
やっとの思いで
入ってはみたものの
トイレは2階だった

死に物狂いで駆け上がると
当時若者に流行していた
シースルートイレだったので
壁もドアも屋根なく
展望台の望遠鏡の様な
男子用便器が3本
殺風景に突き立っていただけだった

手すりの下には
一階の様子が良く見えたし
もちろん
一階の人からも丸見えだった

目標を定めると
俺は嗚咽を漏らしながら
コックを開放した

立ち上る湯気の下に
とんでもないものが見えた
切れた陰毛が
尿道のじゃまをして
おしっこの筋が
二股に分かれているのだ

その一筋はあろうことか
一階に向けて落下していた

ショートカットの似合う
小柄のウエイトレスさんの
背中の白いブラウスに着弾した

抗生物質を飲み続けていた
俺のリキッドはカキ氷の
レモンシロップのようだった

彼女が上を向く前に
いそいでモノをしまい
節目がちに走って逃げた
パンツの中はびしょびしょ
俺のハートもびしょびしょ

逃亡先の地下鉄のホームで
とても悩み反省した
くどくど考えた挙句
引き返すことにした

喫茶店に着くと
シャワーを浴びた女の子が
私服に着替えて
キッと睨んでいた

すみません
本当にすみません
せめて
クリーニング代を
払わせてください

頭を下げた俺の
手を引いて
彼女はテーブルに
俺を誘い
二人対面して座った

俺は前立腺肥大のメカニズムを
テーブルを黒板代わりに
指に珈琲を付けペン代わりにして
図解しながら説明した

彼女は最後まで
金を受け取らず
腕を組んでうなずいていたが

よっしゃ、もうええで

と俺を解放してくれた

ありがとう
ありがとう
俺の弱さ
俺の誠意
わかってくれて
ありがとう

そんな訳で
大分巨大化したけど
ソファでポテチを食べてる
君達も良く知ってる
俺の嫁さんが
その時の彼女なのさ


自由詩 マーキング イエロー Copyright ハイドパーク 2010-10-26 19:02:37
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