襤褸凧
……とある蛙

疲れた眼を開けると

目の前の街路にわさわさと
夥しい数の奴凧が
尻尾を引き摺ったまま
蠢いている。

大きいのやら小さいの
赤いのやら黒いのや
斑模様やら縞模様の
真丸のやら楕円のや

沢山蠢いているが、
一様に輪郭がぼやけていて

凧の骨組みから紙の切端が漂っていて
風に吹かれると襤褸(ぼろ)のまとわりついた
竹棒が宙を貫き立っているような

風に煽られあっちへふらふら
こっちへふらふら
ややもすると
風に煽られ引っ繰り返る

引っ繰り返った凧の顔
ひどく無様な夜叉の顔

引っ繰り返った凧の顔
ひどく悲しいオカメ顔

引っ繰り返った凧の顔
ひどく醜いヒョットコ顔

引っ繰り返った凧の顔
ひどく恥ずかしいすまし顔

しかし
遠目で見ていては
ぼんやり どれも同じ顔、
あっちへふらふら
こっちへふらふら

ここから見てるとこの凧は

路に渦巻く風のせいか
世間の小さな風のせい

安手の薄っぺらい自尊心が
行きたいところにも行けないで
肩肘張って漂っているようで

ちょっと眼が悪くなったせいか
沢山の襤褸(ぼろ)凧が見えるようになった
それが良いのか悪いのか


自由詩 襤褸凧 Copyright ……とある蛙 2010-10-26 17:00:33
notebook Home 戻る  過去 未来