生まれた家
小川 葉

 
 
生まれた家をさがしに
旅をしていると
雨が降ってきた

私は寂れた商店街の
農業用品店に
傘を買うために立ち寄った

ごめんください
というと
見覚えのある人が
店にあらわれる

傘は売ってないという
その代わりに
青い合羽をすすめられた
ゴアテックスの
最新素材のものだというけれど
二万円は高すぎた

こんなのアマゾンで
もっと安く買えるのに、と
冗談めかしていうと
店主は笑ってうなずいて
ただで私にくれるのだった

見覚えのある
あれは奥さんだろうか
お茶を出してくれたので
私は店主と世間話などをした

跡継ぎの話になって
詳しく聞いてみると
いるにはいるけれど
休みのたびに
仙台に遊びに行って
困っているのだという

なんでも仙台に
ほれた女がいて
家を出て行くとか
孕ませてしまったとか
言っているのだという

けれどもこの店も
自分が生きているうちなので
それならそれでいいと
店主は笑って話してくれる

本心かもわからないまま
店主にもらった
青い合羽を着て
雨の商店街を後にする

しばらくすると
見覚えのある景色ばかり続くので
気になって戻ってみると
農業用品店で
通夜がおこなわれていた

窓からそっと覗くと
跡継ぎの息子なのだろうか
早いよ、と言いながら
泣いている

いずれにしても
私の生まれた家は
ここなのだった

泣きながら
喪主をつとめる跡継ぎを
遠くから見ていた

跡継ぎをしてくれて
ありがとう
おたがいこれから
どうなるかわからないけれど

私は青い合羽を脱ぎすてて
仙台の街へ帰っていく
 
 


自由詩 生まれた家 Copyright 小川 葉 2010-10-26 02:50:24
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