夢散 / ****'04
小野 一縷

銀に回転する木霊 切り裂く稲妻は金
雷鳴 砕け散り 緋色の星群
飛来する箒星 末尾 流れ 弾け  
灼熱の 列火 連なり 街は 黒く 崩れてゆく
その様が スプーンを 真似た 冷たく 固い
目蓋を スクリーンに 幻灯機 稼働する

無声 否 無音の 只中で
グラつく眩暈 キリキリと頭痛へ
変成する 感覚神経への刺激
血肉は 精神より狡猾
罌粟の煙へ 条件反射を模して
求愛 否 愛欲 否 性欲 否 もっと
原始 原初 化学物質 ケミカルと
レセプター 脳細胞の 単純明快な 結合
それも 連続して ただ ただ 具体的な
場の無い 何処かへの 到達 
それは 移行 沈下 上昇 開放 収縮
ミニマムに 毎夜 無音で リピート 
ループする リフレインの 無限軌道の 歩みに
聴覚で感知できる 足音は 無い
せめて こうして 足跡を ペンで 書き残して



 ここで 静寂が 身籠って いるのは
 色彩 淡い水性の 変調律
 それが胎動 静から 
 泡 涌いて 否 生まれて
 響き 揺れる 水面の 奥底
 ひとりぼっちの貝 
 もの言わぬ 唇が 囁く 歌 ここに



静寂から滲んでくる脈音 その余韻
月影にだけ生える苔の薄緑
故郷を無くした詩人 ロンデルを詠う
主の側 蒼い馬が 軽く 尾を振る


静寂から毀れ落ちる 硬いエコーの笑み
森に降る霧雨は 夜針 繊細な刺激
大木の穴を覆う 羊歯の上に佇む みなしご
盗んだ真鍮の懐中時計 もう動かない


静寂から生えてくる 不安の芽
麻の苦い香り まだ未熟な 希望の扱い方
老人は我慢できず 沈黙の中 枯れ落ちる
酔狂な若者たちは 夜中みな 踊り狂う


静寂から浮き上がる 捨て犬の小言
見世物小屋から逃げた 小人のでっちあげ
六才になると 子供は皆 背中に六茫星を 彫られる 
艶のない蝋細工の聖母 砒素が染み込んだ聖書

大小 強弱 高低 
意味も 価値も 何も 無い 音が 
目眩の中 木枯らしになって 渦を巻く

その螺旋 軌跡を 言葉に してしまうと
こうして実に くだらない 詩に成り下がる 

化学的筋書きの 夢 幻は 風前に昇る 虹色の煙
ただ その 喫味を 
ただ 無垢に 愉しみながら 今宵を過ごす






自由詩 夢散 / ****'04 Copyright 小野 一縷 2010-10-22 22:57:46
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