真冬の夜行列車に乗って
虹村 凌

人を脅したり騙したり物を盗んだりして
ゼロハリバートンのアタッシュケースに現ナマを詰め込んで
北に向かう夜行列車に乗るイメージを抱いている
関東を抜けて東北を越えてもっと遠くへ
トンネルを抜ける前からずっと雪景色が続くくらいの北へ
北へ
北へ
北へ
その夜行列車が東京から出るのか上野から出るのかも知らない
北には知り合いもいないし帰る場所もない
ただ闇雲に北へ行きたくて
たまらないんだ

平等も平和も信じていないのに
平等と平和を望んでいる
誰が上で誰が下で
誰が凄くて誰が凄く無くて
誰が強くて誰が弱くて
誰が偉くて誰が偉く無くて
そんなのがとっくの昔に面倒になっちゃって
もうどうでもいいんだって繰り返し言ってるけど
そういう訳にもいかないんだよって
大人みたいな顔して笑っちゃうんだ
何もわかってないのに
わかったふりして頷いちゃうんだ

全部バレてんだぜって
誰かが言ってる
顔に書いてある
目がそう告げている
苦し紛れに
一箱300円のままの煙草を吸う
たった2週間以上前の事なのに
もう歴史だとかの匂いすらするから
何だかもうどうでもよくなるんだ
そう思わないか?

俺は大嘘つきでデタラメな詩人だぜって笑うと
許してくれるんじゃないかって思いながら
嘘と本当を撹拌しながらキリモミする
ジョナサンよりも早く遠く
現実から逃げるように現実に向かって
現実を見ないように現実を斜めに見ながら
誰だってそうなのかも知れないけど
そう考えたら
みんなを許してしまえる気がする
気が弱いだけなのに

風が吹いて桶屋が儲かったり
俺が生きて誰かが死んだりするって考えると
もうたまらないくらい嫌になるけど
どうでもいいくらい楽しい事も考える
アダルトチルドレンとか現実逃避とか
何か色々訳わかんねぇけど

クラゲになっちまったのかな
どうなんだろう
舌を噛み切れもしない意気地なしだから
馬鹿にされたって嘲笑われたって怒らずに笑ってられるさ
そうやって生きるのが楽だったから
そうでもしないと生きてられなかった
居場所がなかった
なんて
暗い話はやめようか
誰だってきっと大差無いから

逃れようとする俺と
フラフラと歩く俺が
憎み合いながら腹の底でひっくりかえったり
頭蓋の中の二匹の虫と
シミったれた負け犬が頭蓋の中で遠吠えて
気弱に笑うんだ
子供の頃に夢見たような
立派な大人になれやしなかった
でも今だって
当たり前の男になれたらいいねなんて
まるで手遅れみたいな顔で笑う
シェリーがいないから
俺は上手く笑えているかわからないけど
劣等感を晒す事には馴れちまったな
って笑うのは秘密主義者の卑怯者

ゼロハリバートンのアタッシュケースが
本当は古着屋でかった1000円の旅行鞄で
財布の中には小銭しかなくて
無計画に北に向かう度胸も無くて
それでも
助けて欲しいと言えないのだ
だから北へ
北へ
北へ
北へ行って雪をみたらきっとどうにかなると
自分が見える様な気がして
また笑って煙草を揉み消すんだ

誰かを失望させたりする事を
ずっと考えながら
ずっと怯えながら
無難が一番だと笑いながら
当たり前の男になったんだ


自由詩 真冬の夜行列車に乗って Copyright 虹村 凌 2010-10-17 00:54:04
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