コスモス
天野茂典

 

  葛飾北斎
  の
  雨にうたれて
  (今年の秋桜は美しかった
  豪雨の
  中を
  歩いてきた
  江戸時代にはまだ
  ニホン狼はいたとおもうが
  獣の匂いはしなかった
  バスから降りて
  分厚い手帖の年鑑
  と
  ヨーヨー
  を落とした
  道は川になっていた
  わたしはケンパッパのように
  流れを飛び越えながら
  北斎の浮世絵について
  ポップ・アートの
  明るさについて考えていた
  (ことしの美術展はさかんだったのだろうか
  美人が好きだ
  風景が好きだ
  蒸気機関車も好きだ
  女の上に大蛸をはわせて
  ぬめりぬめりと
  肌に吸いつく吸盤にもだえさせ
  その官能を描ききった
  北斎
  の
  美意識
  雨
  は
  斜めの直線だった
  バケツをひっくり返したような
  宵
  湧きあがる女子大生と行き違い
  信号待ちしていた
  ぼくの落魄
  今は亡き
  北斎
  の
  ピンク
  の
  骨
  が
  音立てて
  豪雨
  のように降ってくる
  ぼくの荷物も
  ぼくの未来も
  びしょ濡れになって
  ぼくは傘から顔がだせない
  こんどはぼくの大好きな蒸気機関車に乗って
  北斎が描いた地理を尋ねよう
  きょうの朝日はどんな花柄なんだろう
  どんなセロハンの色だろう
  雀のようにいっぱいの
  陽だまりを
  翼に蓄電してこよう
  これを書いたらぼくはカーテンを開けに
  歩き回るのだ
  朝だ
  海よ



             2004・10・21


未詩・独白 コスモス Copyright 天野茂典 2004-10-21 06:30:40
notebook Home 戻る