夜とふたつ
木立 悟






足踏みの音が
空を動く
少し傾いだ
輪を描く


ふたつの流れ
ふたつの海にたどりつき
海になれぬまま
海を巡る


誰も居ぬ部屋
明かりだけが
明かりを見ている
鏡のなかの 自身を見ている


まばたきのない
まばたきの夜
白になぞられゆくかたち
通りに満ちる 見知らぬかたち


月を見すぎた
窓の左目
痛みと 痛みを映した滴
未明へ未明へこぼれゆくもの


二重三重四重五重
曲線につけられる名としての虹
重さの無いものがたどる路
進む色 こぼれる色を受ける手のひら


うろこ 光
ひらく水音
刺さる 立つ
上下をつなぐ


柔毛と雷光
下へ向かうものらを止めはしまい
かがやきのない熱を呑み
海は海のままに在る


指が指につける色
つまびくように遠のいて
指先の広さの 高い柱へ
雨の上の 上の夜へ


空と水を
暗がりがつなぐ
半分の紙
裏には 霧の絵


やがて夜を継ぐだろう
だが
どの夜にも重ならぬ
幸せではないふたつのもの


緑は静かに白になり
やわらかさを聴き じっとしている
月は空の頂
左目は隠された絵の夢を見る


さまようしるべの声は低い
道とは何かを 知らぬものの地図
ふたつの手のひらに
照らされてゆく





























自由詩 夜とふたつ Copyright 木立 悟 2010-10-04 15:38:38
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