アメリカよぼくは思う『隠者の夕暮れ』
天野茂典

アメリカよ
汚れた国よ
科学と兵器
先端技術の軍事大国よ
大勢の異邦人を抱えた国よ
帝国主義者よ
経済戦略と
赤字の国よ
ユダヤ人よ
難民よ
多国籍国家よ
渦巻き星雲のように
いつも新しく生まれる国よ
あなたはぼくの教え子を温かく迎えてくれてるだろうか
アメリカに移住してもう何年がたつだろう
ミズリーから
オクラホマ州へ大学を移転して
いまごろは生物学を講義しているはずなのだ
最初は米語がわからない
ちんぷんかんぷんで授業を聞いていると便りがあったが
2・3年もたつうちにこんどは
専門の生物学を教えることになりましたとの便りがあった
アメリカの田舎町でひとり
大学の教壇にたつ教え子のその後のいきさつは
ぼくの家が火事になって住所録がもえてしまい
もう電話もかけられず
手紙も日本食品も送ることができなくなった
日本語を忘れかけているので『文芸春秋』でもとろうかと思う
とも書いてあった
先生は批評は好きですかときかれてことばを詰まらせたこともある
鎌倉へドライブに行ったときのことだ
飯田かほりさん
あなた
あじさい寺がよくにあった
22歳の筑波大学生だった
なぜアメリカなのか
ぼくはきかなかった
若さとはそういうものだ
しっかりした娘だったので
10年後先くらいの人生設計は話してくれた
それから帰国するのだそうだ
アメリカよ
彼女をしっかり鍛えてくれ
アメリカよ
彼女に生きるバイタリティを
藁のように教えてやってくれ
タフな国のことだから
彼女もすくすく育つだろう
アメリカよ
アメリカよ
『吠える』
アレン・ギンズバーグよ
短い一篇の詩を書くのではなく
ひとつの人生を要約するための一篇の長編詩にささげたいのち
ジャック・ケルアック
『路上』の時よ
アメリカのルートをくもの巣のように奔りゆくもの
病んだ国アメリカよ
あなたはあなたの娘を巣立ちさせる義務がある
もう音信不通だけれど
こうやってここにかつてのひとりの教師が
あなたのはためく星条旗
青空に翻り
健康に輝くことを願ってやまない男のいることを忘れないで欲しいのだ
農道をゆくトラックターよ
学生よ
ひっぱりだしくれ
彼女の逞しい教養と知性を
生きる知恵を
批評がひとつの武器なのだから
彼女の
海! 



               *ペスタロッチ『隠者の夕暮れ』
               2004・10・20


自由詩 アメリカよぼくは思う『隠者の夕暮れ』 Copyright 天野茂典 2004-10-20 18:36:00
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