肉を買いに雨を、出た
番田 

今日は雨の中を外にバッグを持って、値引きであろう肉を買いに出かけた。

前に住んでいた、東京のスーパーは本当に熾烈な競争を繰り広げていたけれど、ここは郊外なので、なんとなく見たところそうでもない。競合店は少ないし、建物の周りには古本屋が一件あるぐらいだった。だけど、この街のこちら側に住んでいる者は誰も遠いので駅の向こうの巨大店舗に赴こうとする者はいなかった。

窓を開けた時の外はどしゃどしゃと雨が降っていて、出るのはキビシイかんじだったけれど、ドアを出た時はあまり雨は降っていなかったので、そのまま傘もささずに出かけた。しかし顔にはなんとなく滴が当たってくる。そんなふうにして目を細めながら、私はいつもの、小さな川の横の道を通る。今日も川はなんとなく灰色でくすんでいたけれど、これはやはり日本の川という名の川なんだなと思った。そしてなにかもっと美しい川の色を見たいものだと思った。ああ、多分見たこと無い、パリのセーヌ川の風景はもっとロマンに満ちあふれている色であることだろう。水色なのか、コバルトブルーなのか…、胸がときめいた。そうして私はぼんやりと色々なことを思い浮かべつつ歩きながら、遊び回る子供たちの脇を通り抜けて、色々な色をした看板を通り抜けながら、しばらく入っていない、あのしょっぱいラーメン屋の前を通って、見えてきたスーパーの中に入った。

行きつけである近所のスーパーは、あのダイエー系列のお店である。競合店もまわりにはないので、まだ普通に、何事も無く経営できているのかもしれない。その辺の事情に関しては私は事情通ではないのでよくわからない。そうして雨の道を歩いて、中にやっと入った私は、フロアにエスカレーターで降りて行くと、緑色をしたカゴをとり、しばらく歩いて家に無くなっていたコーヒー豆をカゴに入れ、目的であった、値引き目当ての肉売り場に行った。…赤い、肉売り場が、視界の向こうから、だんだんと、近づいてきた。しかし、そこでうっすら目を開けると、肉のパックの値札部分には何も目当ての黄色の割引シールは張られていなかった。ああ、なんと!時間が早すぎたようだ。落胆した私はしぶしぶ適当に置いてあった、普通の値段の豚肉をカゴにいれ、レジに歩いた。クレジットカードで清算をすませ、それらをビニールにつっこんで、エスカレーターではなく、目の前に見えた階段をのしのしと上がると、外に出る。外のパチンコ店の光が眼光を刺激し、私は目を少し閉じた。

そして私はうっすらと目を開けてみた。すると通りは雨脚が強まっていて、帰るのがおっくうになった。私はカラオケボックスで一時間ほど雨宿りでもしようかとほくそえんでみた。私にはまだ、聴いたことはあるけれど歌ったことの無い、歌いたいレパートリーが少しだけあったのだ。私はカラオケ館のある方向に、すっと足を向けようとした。すると目の前を通り過ぎる人たちがぼんやりと傘をさしている。おじさんも、公園の中を行く子供たちも、そうだった。ふっと、そこで私はなんとなく苦い笑いを浮かべて、ビリヤード場のある方角に、ぐっと足を向けた。



散文(批評随筆小説等) 肉を買いに雨を、出た Copyright 番田  2010-09-27 04:00:11
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