冬(「バード連作集4」)
光冨郁也

 春も夏も秋も、わたしにとっては短かった。あれから一年が過ぎ、長い冬がまたやって来た。失業し、仕事を探している。
(しばらくは会社に行かなくてすむ)
 わたしの元へは戻ってこなかったものもあった。

 情報誌を買いに朝、家を出る。砂浜とは反対の方へ歩いていく。アスファルトが靴を通して固い。目の前を走り去る車。セーターの上のダウンジャケット、ポケットに乾いた手を入れ、曇った空を見上げる。無風の朝。風の音もしない風景。バードのいない空。
 ポケットから手探りで、硬貨を取り出し数える。商店街へ向かう。コンビニまでしばらく歩く。赤い郵便ポストの角を曲がり、コンビニに着く。棚の前に立ち、アルバイト情報誌を手にし、それからほかの雑誌の表紙を眺める。手の甲であくびを隠す。ずれた眼鏡のフレームを上げる。情報誌の発売日を確かめる。情報誌とホットコーヒーを買った。外に出て、来た道を戻る。
 砂浜近く、道の脇、コンクリートの上に腰を下ろす。コーヒーの缶が熱い。缶を開ける。誰もいない部屋にはすぐには戻りたくはなかった。ひと気のない砂浜。
 コーヒーを飲む。缶を置き、情報誌をめくる。明日からフォークリフトの講習に行く。荷を上げ運ぶリフト。そのフォークリフトの仕事を参考のために探す。この近くにあるタバコの配送会社の倉庫。時給千円。フォークリフトとしては割がよくない。
 飲み干して空になった缶をコンビニの袋に入れ、情報誌を片手に、砂浜を歩く。打ち上げられた流木をつま先で軽くける。流木の上に立つ。腕を開いて重心を取る。飛ぶ形。風が吹くのを待つ。曇り空を見上げる。女のバードが飛んでいた姿を思い返す。
 砂浜に腰を下ろす。くすんだ海の上、曇った空は、冬の色。波があふれてくる。遠くで風の音がし始めたが、ここには吹いてこない。
(女の顔をしたバードは幻、もういない)




自由詩 冬(「バード連作集4」) Copyright 光冨郁也 2004-10-19 20:57:47
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