タリサ、クミ
salco

死んだ少女の手を取って
「タリサ、クミ」とイエスは言われた
少女よ、起きなさい
へべれけにされマワされて
中学生の少女は自殺した
夏の未明、背伸びの季節には
恋に恋する期待もあっただろう
年長の少年達の餌食にされたと知れたのは
少女が死んだ後だった
タリサ、クミ タリサ、クミ
誰が言ってやれる
柔らかなその手を取って
突っ込まれていた間の記憶を消せとでも?
それとも「克服」しろと? 何十年後に?
楽しい事が待っていそうな夏
出て来いよと誘われて
精一杯の身繕いで応じた女の子が
負うべき罪科だと言うのか強姦は

「子どもは眠っているだけだ」
イエスは言われ、少女は
病褥から起き上がりその足で歩いた
5歳から年嵩の少年達は芋蔓式に逮捕され
審判にかけられ実刑を食らう
傷害致死でも強姦致傷、自殺幇助罪ですらなく
長くて2年半
初犯なら少年刑務所でなく鑑別所か少年院だ
だから収監でなく「入所」「入院」であり
懲役ではなく法律上それは「保護処分」
更生し就労し、いずれは結婚もして子を持つのだろう
30になり40になり、
年ふるほどにあの夏の小さな澱を薄めつつ
タリサ、クミ タリサ、クミ
誰が言ってやれる
罰は下り罪は赦される
それで、
牢獄に投じられたのは誰だ
地獄に突き落とされたのは誰だ
消費され自害した少女はどこへ行った


マルコによる福音書 第5章22〜



自由詩 タリサ、クミ Copyright salco 2010-09-19 21:02:59
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