轆轤肉のクロニクル
人間


【受肉期】

米の雨が降る。
般若湯を浴びた犬薺が吐いた執着心の灼熱で霰になる。
霰に降られた蓮華蜂蜜のベンゼン環が乱痴気に濡れて、
観音開きの喉仏から大挙する粟が眠る雷を起こす。
米の雨が降る。
肺炎のゲイラカイトに積る雲母の空母の分母から溶樹の塩素分子が育つ。
米の雨が降る。
縄文杉餓えて防砂林喧しい。


【幼肉期】

浅知恵熱の風上に置いた匂い立つマイコプラズマを鑑とするぬばたまのハルツバージャイトが共軛すれば、
御前さんの曙光は文弥の旋律からイメージクラブの釣り銭に落ちる。
劣情が金科玉条のパラフィン蝋細工の蝶は檜扇の上でシャハナーズに変わって、
それから、僕達は日蝕と一緒に自己紹介すれば宜しい。


【中肉期】

世人に茹だる悪癖のプリュームが引く尻尾を切れば、
他愛は無くとも他意の有る現状に優しい廃水が運河に流れる。
美醜の彼岸に爛漫の天真が天中殺に購って、
スワロフスキー・クリスタルの瓜坊が畔を走る憂き目の糸を糾って、
先祖返った赤海亀が産み落とす感動中毒に抗って外連味で煮込む癪の虫。


【筋肉期】

烏柄杓と鳥兜の生い茂る複素数平面の上、
グラファイトで練り上げられた第?種国家公務員の番が斜文織りの睡眠時間を横に裂く、
その合図で始まる殺陣の侍ブルーが農奴ドドメを切り捨て、
独裁体制礼讚団体の涙黒子が弾け、
親切心の骨髄が間欠泉になって湧き、
タランチュラオオベッコウバチが虹を噛み拉く。


【贅肉期】

てにをは狂いの事務員がエチレンポリオキシプロピレングリコールの汗に浸り四苦八苦を攪拌する。
天井を擦る不完全テンプス小プロラツィオの中で育つ凡百年の蟲毒が垂らすマルピーギ管をくわえた顧客に湯呑みの中の嵐は亀裂を添える。
贅肉のデルタから不倶戴天のナブラへ、悪汁の抜けた垢は影を伸ばす。


【屠肉期】

霜降るローレンツ空間で果敢な非可換環がベラドンナに擬態するテロメアの千枚舌を切り落とす朝、
昼はナポリイエローの海にチャイニーズレッドの漆塗箸を入れベルリンブルーの有髄繊維を引き摺り出せば季節が寝返り、
夜は阿と吽の愛の巣に澱むモホロヴィチッチ不連続面でユニタリ群が孤独死する。


【生肉期】

貪食の楔は明るいマクロファージ、貧困のプラセボは黄楊の櫛。
ディシェンヌ型筋ジストロフィの鶯が祝詞旋律でテリトリーソングを歌う真昼間、
赤腹井守がソデフリンを下水道へ垂れ流すと、
ミクロキスティスは積乱雲を真似て矢倉穴熊の囲い、
その隙に青東屋鳥が分解された羅馬字を集めて史実を捏ち上げる。


【屍肉期】

型板の誘惑はテンペラ画のムカデの如く米噛に忍び寄る、
すべからく舌を甘くし、我々は艾を揉んで好機を打つべし。
砂鉄を掬えば諸手に生える繊毛のトルクに宿る譫妄で大陸棚は撓む、
寝返り遍歴の年表を綴り飛ぶ種無し腑抜けの蝶番が留まるハナモゲラの特異点で、
ドッグフード頬張って猿踊りするよ俺は。


【枝肉期】

エレクトリックレトリックの庭にはゲンノショウコとクソニンジンが育ち、
エレクトリックレトリックの屋根には自律神経のアンテナが立ち、
窓からは絶滅した二人称が石油になって噴き出し、
寝室には放射性同位体を抱いた無名の素拍子が寝ている。
エレクトリックレトリックには出入口が無く、避難口だけがひっそりと有る。


【干肉期】

縁側に打ち上げられたマンボウが夜の日時計止めて嘶く
風切羽枯れたペガサス肉離れ中央競馬で野次られる哉
幾何学のウツボカズラで乾杯しアカエイ捲り覗く密談
パンの耳削ぎ我が身仰ぎ伊達禊継ぎ接ぎ息継ぎ食い繋ぎ児戯
祭日は居ない相手と待ち合わせ場所も決めずにすっぽかされる


【腐肉期】

騒々しい能面共の蓋を開けば、
あの、行動も観察も無い言葉の渦だよ屑だよ星の、紙の、振り子の虜で自動機械の詰まった剥製だよ。
色を仕掛けりゃお目が掛かる、予断の簾が物語る。
赤と黒のオセロが埋まれば、表は虻でも裏は蜂。
皮剥ぎ狸は泥沼浴で泣いた烏が甦る。
尚も、日々の老朽化と向き合いもしないトタン葺きのあばら屋に同じ。


【骨肉期】

回線暴徒は花曇り前日に夜泣きする。
粛清の斉唱の岡崎フグメントを縫って鹿威しが外れた箍の仇を打つ。
偏光の隙間に離乳れの早贄、
難攻不落な脱脂綿の両端からスキムミルクとコールタールを吸わせて混じり合う面を象ればエゴの花咲くプロメテオーム。
硫化銅水溶液の半身浴で自惚れに溺れるフナムシ。


【霊肉期】

目覚まし時計皿を打つ雨漏りで唖鈴の禍音が鳴る。
要石の涎が朝になる。
持回りの見廻りで煮え霧吸う復員が一列に飛ぶ琵琶羽衣を経費で撃ち落として退屈を凌ぎ、
その硝煙を雲梯にして昇れば労働基準法の貯蔵根が鈴生る鍍金郷へ至る。
高野豆腐の林に果実酢の池、
左団扇で右に出る者が輪になって残業する


【無肉期】

鎗の雨、濡れた混繰土は影法師。
地面に耳をそばだてたまま三点倒立で物忘れ、しようね。
潮時に頬這う蟻が噂する量子化学の不祥事を犬死にの行商人に横流し、
景気良く空に埋もれる棘の湯気を回文の世界喃語で見送って、
忘れずに、二人の様に一人して、ずっとそうして、いようね。


【余肉前期】

嘯きて篝火に番うイボタガへ和太鼓叩く身無し児が炭
鉄棒が串刺す影の逆上がり夏の足蹴に大陸地殻
漫ろ言構造式に展開し枳殻垣に縫込むゴミグモ
自然薯の破る沈黙に念珠藻が溢れ反りて空室求む
放蕩のクラミドモナス集いけり鬼が来たりてたけなわ焼けた
臆見の化石埋もれし層積雲抉る野蛮の質に売る為
ガガンボの脚が散らかる踊り場で打ち水茹だり五稜郭立つ
人身に緑麗し忌憚の葉、鈴生る無残燻すが如く
癇癪婦、矢庭に撒いた卦体糞の深い皺に樟脳を詰む
窒息し葉脈染みた錨の群れ、氷中に未知穿つガロアムシ
アメフラシ産み付けられる弁慶草、春を売り冬を買う姉
雲火事と鉄の砂漠に置き去りのヒトリヒヨケムシ抱く磁力線
なまくらし不眠のツェツェバエ道連れにトリパノソーマ叩き降る窓
反る蛇腹、イオン勾配で笑む重機にピューロマイシン打つネジレバネ
祖々父母の内積に咲く金鳳花炒って偽り煎じて真
渡し箸ハシリドコロの枯葉積む万年床に割れる採算
浜茄子を通行人に供えけり掻爬の手付きで混ぜる鳴き砂
雨垂れが逆さ茶を摘む鮫肌にペロブスカイトの懐刀


【余肉後期】

交番の片隅に肉の襦袢が干してある。
標本の独壇でテナガコガネが膝を打つ。
白濁の花曇りビザンチン柄の雪が降る。
赤んぼのうわ言で絶版される広辞苑。
擬宝珠の技法書は草の息の根止まらない。
まるめろの薄皮に暮らす家族は風邪を引く。
蟻を追い海を越え白華煉瓦の塀高く。


【終肉期】

終わりの日、五臓六腑抜作は濁り目を暦にして捲った。
右耳では椰子蟹カタツツが安売の寓話を語りつつ、
左耳では蚯蚓ウラヅが裏拍子を打ちつつ、
両耳で代わる代わる笑う、
眺め長ら目の回る抜作は差詰轆轤肉の如く、
此んな馬鹿気た仕打ちは運去りと思う間に間に聞いた、
左右の完全八部音程違え「憚様」の慰労が軋む。

「憚様」


自由詩 轆轤肉のクロニクル Copyright 人間 2010-09-18 01:42:29
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