洗骨
楽恵


横顔にぴしぴしグマアミグヮー
濡れぼそりながら
私たち家族おまえの骨を探して歩くさぁ
野原道を彷徨うよ
さっきまでね、
青く尖った蘇鉄が生い茂る庭先にいた
玉虫は突き刺されて
空になった厨子甕 に水が溢れかえっていた
うらうらボウフラが湧いて
緋色の実が2つだけ浮かんで

空が埋まるほど爆弾を落とされても
すべての血族が滅びる事はなかったさぁ

生きていた頃のおまえの姿がね、水をたたえて
満面の笑みを真昼の月と星とが映している
次の瞬間、実が割れた
ぱちんと、ね
マブイ だけ先に帰ってきたの?

家から出る前に、いく粒か米粒でおまえの骨の行方を占ってきた
舌は嘘をついても
米粒だけは正直だね

大勢の親族や隣近所の人に門まで見送ってもらったよぉ
そのうちの半分はすでにこの世にいない人たちさぁ
生きていた頃たくましかったおまえも
今ではすっかりカラカラと乾いた骨になっているはずねぇ

体にくっついた水分は、海と同じ味がした
灼熱を浴びて蒸発していった者たちが
雨となって再び戻って来る

野球場のフェンスに遮られた野原を過ぎ
さらに向こう側に切り立った崖があり
窪んだ洞窟の蔭に
おまえの骨は散らばっていた
獣の匂いはなかった
太陽の眩さは島の王様そのもの

米粒の占いの通りだったねぇ
本当はもっと早くに迎えに来たかったさぁ

私たちがあずかり知らない事情がそれを拒んでいたから
おまえは立派な亀甲墓にも入れずに
この島の地形のどこかに崩れ行方不明になっていた

すでに雨が手を伸ばして 
残されたおまえの欠片をまさぐっていた
同じように私たちもおまえの骨を洗いはじめる
ごめんね、
骨を洗ってあげるね
犬や猫とは違う
人間であることの証し
肉や血の跡がすっかり流されていく

雨が上がったあと
私は
気がつくと道を失い家族とも生き別れていた

迷子になってしまったさぁ

帰り道を忘れてしまっても
大丈夫
今度は彼らが私の骨を洗いに来るだろう
私はここにいます



*註

 「グマアミグヮー 」 方言で霧雨を意味する。
「厨子甕 」骨壷のこと。
「マブイ 」方言で魂を意味する。
「米占い」米を掌の上に載せて占う。沖縄で盛んな占いの方法。
「洗骨」洗骨は死者の骨を海水や酒で洗い埋葬する、かつて沖縄で行われていた葬制のひとつである。


自由詩 洗骨 Copyright 楽恵 2010-09-13 10:28:39
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