ローカル
Akari Chika

私の
白い爪の先を
撫でる
あなたの大きな
親指

電車の隅に座って
人目を避けて
生きてきたのに

手鏡を見つめる
自分の顔と
その向こうに流れる
車窓の景色

懐かしいような悲しいような
田園は
瞳に
思い出を残していく

ありがとう ありがとう
ポツリ ポツリと 呟いた

左手は朝の温もりに消えていく
右手は深緑を掴んで
心だけ あなたの中で揺れている

浅はかに
無邪気に
重ね寄せる不安も忘れた

肯定は
恥ずかしい
そんな考えを
前の駅に
置いていく

私の
素朴なまぶたを
撫でる
あなたの大きな
親指

身体はいつまでも
欲に素直で
肩先が震える

梯子を下りて
床に沈む
両足は力なく
あなたを求めている

子どものような空気のような
存在は
過去へと
流れ落ちてしまうなら

帰りたい 帰りたい
飽きることなく 呟いた

左手は水中をきって進んでいく
右手はボートを掴んで
心だけ あなたの中で揺れている

優しさに
満たされて
呼吸は肺へと滑り込む

涙が
恋しさの
現れなら
伝うごとに
数えたい

小麦の海
波打つ表情に
癒されて
目覚めていく

広い背中
私の
光る首筋を
なぞる
あなたの大きな
親指

集めた
残像を
継ぎ合わせて
ミラージュを
浮かべたい

あなたの身体中を巡る
線路に乗って
その 一番
ローカルな場所を
走っていたい

ローカル
ローカル
あなたの
ローカルへ




自由詩 ローカル Copyright Akari Chika 2010-09-11 13:53:04
notebook Home 戻る