ミニミニおやじのミニな終焉
salco

運び出された棺は小さかったので
担ぎ手は四人で足りた
会長は、喜寿を過ぎても出勤していた
迎えの車がリムジンだったのは
会社の沽券に関わるだけの事で
カーヴに技術を要するサイズだったのは
次期会長以下、役員全員が並の背丈だからで
会長も、奥さんが生きている頃は並だったのが
先立たれてから次第に小さくなっちゃって
亡くなる頃には20センチがた縮んでいた
尤も、奥さんが生きている頃はまだ常務で
電車通勤だったけれども、
代表取締役に就任した頃には世界一小柄な
大企業のCEOと言っても差支えなかった
入社した頃と違い、
会社の方が随分と大きくなったせいもある
ちょうどその頃、同居の孫達も大きくなったので、
手狭になった家を取り壊し
立派な三階建に新築したけれども、
敷地の関係もあり、やはり小ぶりな家で
息子も嫁も並のガタイだものだから若干
肩身をすぼめて生活しなければならなかった
ミニミニおやじは
その家の一番小さな和室に起居して
黙って食卓に就いて黙って朝食を摂り
黙って朝刊に目を通すと黙って運転手の迎えを受け
会長になっても変わらず毎日出勤して行った
向かい合わせのだだっ広い後部座席にちんまり座って
サスペンションは良いものの
深い座面から床に届かぬ足をぷらぷらと
居心地悪さを小さな身体にじっと折り畳み
本社の車寄せで運転手がドアを開けるまで
身じろぎもしなかった
それから知らない間に膵臓癌で更に萎靡し
それでやっと先日、
並の背丈の奥さんの元へ旅立った
密葬だった
社葬は別途、会長規模で執り行なわれたが
近所に知遇とてなく、長生きしたので生まれた星に
旧友や同僚も残っておらず、ミニミニおやじ
心おきなく旅立った


自由詩 ミニミニおやじのミニな終焉 Copyright salco 2010-09-07 01:35:15
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