こもり うたう
佐々木妖精

足音は雨音に紛れ
身体は真夜中に紛れる

微かな人とすれ違うが
みな傘を手に雨よけに夢中で
真っ直ぐ歩いていく

傘を手に飛び出てはみたが
差す差さないで迷ってしまう
肩へ着地した滴を振り落とさぬよう
歩幅を合わせる
へしゃいだ水たまりの中へ紛れ込めればいいのだが
どうも輪郭があるらしく、首周りが落ち着かない
透き通るくらいまばらになって、そこらじゅうになれればいい
のに

雨の日は自分の音が目立たなくて好きと呟いた
彼の言葉には筆跡がなく
ただ指が垂直に雨を跳ねのけ
白々と浮かんでいると思え


雨に紛れた音は
晴れの日はどこに在るのだろう
真夜中に紛れた身体はこのように
日向で日陰を探しているが
音はどこへ行くのだろう

音 音は浴室や台所に紛れ込む
蛇口をひねれば掌に 満開の雨音
よかったね
きみの生活音は、人に潤いを与える
と、いうことにして雨脚と駆け
見えない場所で、だくだく息を呑む

過去作


自由詩 こもり うたう Copyright 佐々木妖精 2010-09-05 11:02:26
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