あんず飴
Akari Chika

風の弱い 祭りの日

千代紙で折った鶴を
そっと巾着に忍ばせた

少し早足で あなたと並ぶ

慣れない下駄に
つまずきながら

漆黒に
赤や青の屋台が
眩しくて

熱気に
真横の声すら
遠くなる

白く昇る
食べ物の蒸気に
はしゃぎながら

静かに 時を待っていた

手が触れ
肩が触れる
その瞬間を

あなたは
美味しそうにものを食べ
屈託なく笑い

幸せそうに
大輪の花を仰ぎ見ていた

だけど
私の心は
あんず飴のようで

熟れた果実に
絡まる
水飴が
甘美に
痺れ
溶けだして

痛々しい姿に変わる

夜に散る火花に
誰もが見とれ
歓声を上げる

だけど
私の心は
いつまでも

宴の後
売れ残った
あんず飴のように

置き去りにされたまま

ほろりと
溢れた
涙も
夏の湿気に
紛れて
消えた

太陽に似た色の魚
片手に下げて

お喋りの尽きぬ帰り道

惜しむ気持ちを
言い出せず

一つめの角で
「さようなら」

二つめの角で
「また明日」

手も触れず
肩も触れず
ただ
声だけが触れた

宴の後



自由詩 あんず飴 Copyright Akari Chika 2010-09-02 20:40:35
notebook Home 戻る