妹とパソコンのこと
はるな


わたしの家族は、みなそれぞれにパソコンを持っていて、わたしはといえば、専用のものはないのだが、家族供用とされた一台はもうほとんどわたしだけが使っているので、実際はそれがわたしの占有のようになっている。
だからもちろん各々自分のパソコン以外を使う必要がぜんぜんないのだけれど、この間すこしわたしの(家族供用の)ものの調子がわるくなってしまい、妹のパソコンを使わせてもらう機会があった。
学生時代、試験まえなんかに友人とノートを交換して勉強するなんていうことがいくらかあったけれど、ひとのパソコンを見るというのはなんだかそれに似ているところがある。
プライベートの奥のプライベート、他人の秩序。他人の秩序。家族であってもそれはそうだ。すこしどきどきしてしまった。

ところで妹のパソコンのデスクトップには「捨てていいのかわからないいろいろ」というフォルダがある。これは何?聞くと、「捨てていいのかわからないいろいろだよ」と言う。だって自分のものでしょう?いつ捨てていいかどうかがわかるの?
「そのうち、そこに入ってるものが何だったか忘れちゃってわからなくなるから、そしたら全部捨てるの」。

いつだったか、三角コーナーを使うつかわないでも思ったことだけれど、ほんとにいろいろな決別のしかたがある。「捨てていいのかわからないいろいろ」を、妹はおくのほうに、てのひらの皮膚にうまったシャーペンの芯みたいに持っていて、そうして皮膚があつくなるような時間をかけて弔うのだろう。それはわたしからみたら、なんだか真夏に綿入れを着ているような印象だけど、彼女にとってはそれが守るべき秩序なのだ。
「捨てていいのかわからないいろいろ」。


散文(批評随筆小説等) 妹とパソコンのこと Copyright はるな 2010-09-02 12:19:55
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