でんしゃのなかにふる雨は声かもしれない恋かもしれない
石川敬大





ふいに落ちてくるのは声
ねむりを破る声

とどまることなく走りつづける
でんしゃのなかを
でんしゃと同じ速度で疾走する男がいて
疾走する男のその努力をもし徒労というのなら
男の姿は徒労のかたちを借りているといえるのかもしれない

走りつづける各駅停車のでんしゃのなかに
甲虫の顔をした大人が
椅子に坐って
おりるべき駅がくるまでゆられてゆく
おりるべき駅がきたら消えてゆく

    *

でんしゃのなかで行き斃れる者
でんしゃのなかで行方不明になる者
でんしゃのなかで
身も世もなく
アイスクリームみたくとけてしまうものさえいて
( 閉域ではありえない空間なのです )
( ほらまた、雲のように出入りしています )

ぼくはそれをみていて
窓の外から
椅子に坐る甲虫の姿をみていて
( それでいてなにもおもわないのです )

    *

でんしゃのなかで
ふいに落ちてくるのは雨ではなくて
ふいに落ちてくるのは声あるいは恋

ねむりを誘う地声あるいは血声字声時声辞声児声似声自声
それとも
ねむりを覚ます
天の声か
天使の声か






自由詩 でんしゃのなかにふる雨は声かもしれない恋かもしれない Copyright 石川敬大 2010-09-01 23:14:02
notebook Home 戻る