最後の家族
小川 葉

 
 
前田屋というそば屋で
四人でそばを食べた
あれが最後だったと思う

ほんとうは
生まれたばかりの息子と
奥さんのそばに
いなければならなかったのに

遠いところから
会いに来てくれた
父と母と妹と
そばを食べにいった

いっしょにいてあげなければ
駄目じゃないかと
母が私に言うけれど
父は
いっしょに来たかったんだべ
と、笑って
私を庇護してくれた

こんなふうに
四人で過ごす時間は
望んでも
これからあるものではない
そのことを
父はよく知りながらも
これからもずっと
ありつづけると
信じていたのかもしれない

私には妻がいる
そして息子が生まれた

妹には旦那がいる
旦那は妹と
私の代わりに
親孝行を
いっぱいしてくれた
ほんとうは
私がするべきだったことを

前田屋というそば屋で
四人でそばを食べた
とても静かだった
誰ひとり
誰にも
気をつかわなくていい
たった、ひとつの
家族だった

あれが最後だったと思う
私たちが
家族だったのは

今はそれぞれの
あたらしい家族が
それぞれの
あたらしい思い出を
作りはじめている

作らなければならない
 
 


自由詩 最後の家族 Copyright 小川 葉 2010-09-01 00:18:21
notebook Home 戻る