たかさごゆり
小池房枝

テッポウユリではないのです
夏の終わり
花期をたがえて
今頃に咲く白い花

例えばアカザやブタクサ
夏草でいっぱいの四角い空き地の真ん中に
丈高く唐突にすくっと一本だけ
そんなのがタカサゴユリです

細葉の形と付き方が
テッポウユリのそれとは違いますでしょう?

筒長く純白で清楚な花も
つぼみによっては
外側が臙脂を帯びていますでしょう?

他のどのユリよりも華奢な茎のくせ
ひどく真っ直ぐに立ち上がって咲く

ユリゆえか贔屓され
間引かれないのをいいことに
つつじの植え込みや
グランドカバーの草花や
ひとんちの芝生にまで入り込んでる
南から来た強健な外来種

定年退職後の町内会長をしてさえ
「この百合は、飛ぶんだ」と
突如詩人たらしめるほど
尊称としての雑草に値する雑草

彼らを
彼女らを
テッポウユリと呼んで欲しくないのです
テッポウユリではないのですから

あれはタカサゴユリで
どこからか自分で飛んで来たユリなのだと
やがてまた去っていってしまうユリたちなのだと
知っていて欲しい
招いたからといって
生えて来てくれるようなユリではないことも

秋ごとにもう何年も
はじけた莢を見つけては持ち帰っているのに
アパートの敷地には未だ気配もありません

莢には毎年
よく風に飛ぶ種が数多抱かれているはずなのに

タカサゴユリ
わたしなら君の名前を呼ぶのに


自由詩 たかさごゆり Copyright 小池房枝 2010-08-31 19:41:55
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