だけど、そういうことって
ホロウ・シカエルボク




室外機、の
吐き出す蒸気
粘っこい舌で
べろりとやられる
そんなウンザリに
似てる
八月の終わりのこと
ブッとんだヴァイブが欲しくて
歓迎されない扉をくぐる
入口にいる
女は
初めての客にも優しい
(そうね、少なくとも、入ってくるときだけはネ)
ちょっとそこいらじゃ
知ってるとは言えない匂い
サボってる細胞に
チクチクとくるこの匂い
どうしようもないほど
ゾクゾクとしてくるんだ
それはもう
漏らしちまいそうなくらいにさ
カウンターで隣り合わせた女に
持ってるかどうか聞いてみた
「待ってて。探してきてあげる。アンタはとてつもなくさえない感じだけれど、アタシはそういうの結構キライじゃないのよ。」
ベティ・ブーを数週間(ブルーじゃない)
ボクシング・ジムに通わせたみたいな風体のその若い娘は
ちょっとばかり独自の価値観ってやつを
吹聴することに躍起になり過ぎてる感じがした
まあ
そのおかげで
俺みたいなやつも時々いい思いをするわけだけど
20分ぐらいで
女は戻ってくる
「トイレに行く?」
座りなおさずに
俺にそう尋ねる
俺は頷いて
スツールを降りる
狭い個室に二人で入り
おかしなことに
俺たちは少し照れ笑いをする
「そこそこいいヤツだって言ってたけど。」
判るもんか、と俺は言う
彼女は無言ながら
同意、というふうに肩をすくめる
ズッ、ズーッ
俺たちは途端に
高揚感を愛情とはき違える
それは、もう
とんでもない、有様だった
はき違えた、ついでに
腰まで違えそうだった
それでもなんとか
俺たちはいろいろと片付けて
そそくさとフロアーに戻った
ダンスのための
ちいさなスペースで
小競り合いが始まっていた
アンタ、と娘が言った
あそこに混ざってきなさいよ
「アンタなら全員ボコボコに出来るわよ。」
ああ、きっとそうだ、と俺は同意する
だけど今は駄目だな
「どうして?」
「腰に力が入らないもの。」
ハハハ、と娘ははっきりと笑う、そして言う
「この腰ヌケ!」
なんだ、そりゃ、と俺
「だからそう言ってる。さっきヌイちゃったばかりだって。」
腰ヌケ!腰ヌケ!と
娘は俺の背中をバンバン叩いている
俺には彼女が次に何を言うか判っている
「だけど、そういうの、結構キライじゃないのよね。」
俺たちはカウンターに戻って
それぞれの好きな酒を飽きるまで呑む
とりとめのない
嘘と本当の境目の
真実を話しながら
朝が来て
バーイと言って
俺たちは別れる
大した出来事じゃなかった
だけど
そういうことって








自由詩 だけど、そういうことって Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-08-30 22:14:36
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