分解するのが男の子、解剖するのが女の子
手乗川文鳥





雨ざらしの、皮膚の、角質層に浸透しない乳液と、老廃物で崩れ
た二重と、汗ばんだ呼吸で、余計に湿度を寄せて、抜け落ちた獣
の毛が、二人の表面に貼り付いてとうとう一対の獣になって、本
当に獰猛に、唇を合わせながら途絶えた。



グロテスクな蝶は大きすぎた、写真に残すために、つっかけで追
いかけていった妹は、妹のまま戻ってこなかった、いってくる研
磨っとって、文字化けする約束、通信し続ける指が、節から折れ
て粉になった。



むごい夢を見て、人に伝えた、その人にむごい夢がうつった、接
触を恐れて、むごい夢は隔離されて、その人は静かに怒りながら
死んだ、という夢で、それが本当に夢ならばなにも悪いことはな
かったのだけれど。



山を越えて、海があって、岬があって、灯台もあるけれど、原発
があって、台無しになった町へ、行ってなにをするでもなく帰っ
た日は、顔の色の彩度と明度が低くて、どこにいてもなにもかも
明るくてまぶしい、風車はとてもうるさい。



お母さんは起こしてくれるけど、目覚まし時計ではないから、分
解して、もう一度組み立てても、もう二度と男の子を起こしては
くれないし、男の子はもう二度と目覚めることが出来ない、ここ
はそういう森でした。



BTB溶液を落として、青くなったのが教室で、私は全然納得がい
かないので、新しい教室で何度もやり直して、それでもやっぱり
青くて、酸のありかを求めて、黒板睨んでも睨んでも窓の外で銀
杏がくさくて今日はもう帰る。



森は、燃えて、樹が、西に倒れた。食堂で椅子にもたれながら、
だれもいない空洞に露は溢れた、交差する赤い靴の軌道を計算
しながら、秘密が保たれている、それが空洞で、外皮は硬くな
りながら収縮して、恐らくわたしも燃えている。



嘘つきの男の子が、ずっと好きだった、わたしは女の子ではなか
ったから、触れることもできなくて嘘もついてくれなかった、わ
たしは消しゴムだった、机から転げ落ちて、嘘つきの男の子はわ
たしを遠くに蹴って、潰えたのがわたしだから。



魚の腹を割いて、臓器を調べる授業から、ずっと水と鉄のにおい
が落ちなくて、脱皮の季節を知る、午后はとても眠いので、鉛筆
が震えて、剥かれていくわたしが絶筆した、鐘が鳴りわたしは更
新されました、はじめまして、まだ眠い。



ヘミホルドラ、魔女の唇の動きは昆虫の輝きに似ている、美しく
ない猫を見つけにいこう、そして道に迷って、誰か知らない人の
家に住もう、美しい猫しかいない世界において醜いわたしは、等
しく美しく年老いていくだろう。



ノートに描いた、女の子の絵が、ウィンクして雷雲は蛍光灯の点
滅、つけたりけしたりしたら、怒られるから注意してあげなくち
ゃいけない、終わりの会で言わなくては、先生、放課後男子が電
気で遊んでいました。



塾にいきたくないこどもばかりが集まる公園で、張りつめたボー
ルがとんで、やがて巨大な男の子と巨大な女の子のベッドが生ま
れた、果物が熟して、誰も摘み取らないまま落ちて、踏みつぶさ
れていて、わたしたちはそれをとても恐れた。



へてへても、へても、へてへてもへても、それだけで完成される
会話を交わした、発生して間もない女の子と、発生してぶつぶつ
だらけのわたしと、このまま密林で甘く熟していけばいい、蹂躙
を経て経ても経ても。



男は電動ドライバーを、わたしは俎板を欲しがった、自由になる
ものの、少なさと小ささが、時を経たわたしたちが得た全て、こ
んな狭いところに全てがあって、軒下まで伸びたドクダミの根を
抜いてその長さに二人で驚き笑う日曜の午后。





自由詩 分解するのが男の子、解剖するのが女の子 Copyright 手乗川文鳥 2010-08-30 14:27:24
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