風紋/夏
萩野なつみ
この街はひとつの詩篇しずやかに置手紙のような息を吐くひと
光さす野をひたすらにゆくがいい、君、セルリアンブルーの尾びれ
湯豆腐を崩さぬようにくずしつつ星の底までゆきたいと言う
あけがたのポストは青くうまれくる前にあいしたひとからのメモ
テールライトともして環七走りゆくきみは死んでも星にならない
誘蛾灯に焦がされてゆく幾百の羽、羽、羽、(あれはだれのてのひら)
エル・ドラードと名付けた朝の隙間からこぼれるばかりの虹に切手を
星は幾ついのりを抱くセルリアンブルーの果てにしずむ曳光
発光するさよならだけに水やりをして生きてゆく公転軌道
まっさらな屑星となり名前さえわからぬままにすれ違いたい
改行を繰り返しつつきみの吐く泡)泡)泡)の中のトウキョウ
死にたいと言いつつわらうわたしたちここ墨田区は海より低い
なにかへの答えのようにかたむいてわらう向日葵 夏はもう逝く
貝は貝と麒麟は麒麟とあいしあうこの世のすみのわたしの乳房
生きること生きてゆくこと ひとすじの洗いざらしのような孤独を
名付ければ壊れるもののあると知るいまだからこそきみに花束