太陽
ホロウ・シカエルボク






君の用事を手伝って古い港に僕はゆく
頭上は悲惨な曇り空、八時というのに薄闇で
足下転がる野良の子猫は適度に餌を期待する
「午後には雨が降るらしいからなるべく早いうちがいい」
君はいつでも準備がいいから僕はいつでも安泰だ
店先でアイスクリーム売っている港の近くの商店で
ずっと切らしていたメイプルシロップそれとコーヒーインスタントの
パンを最後に袋に入れたら今日の用事はもう帰るだけ、君の用事を手伝って古い港に僕はゆく
雨は早くに降り出して僕がほとほと困っていると、開いた傘と閉じた傘、抱えて君が現れる
「持って行けって言ったのに」と眉をしかめて怒る振り
ラジオのニュースでタレントがゲームの途中で怪我したと、帰りの話題はそんなところで
五体満足の僕たち二人は歩幅並べて家まで歩いた
行きにジャレてた野良猫は貰った魚を食べていた、もしか君があげたものかも
ぴいぽうぴいぽう救急車、山のふもとへ大急ぎ「あそこのあたりは一人暮らしのお年寄りが多いから」
ひととき足を止めてから君はそんな話をした
話をするのも億劫なほど激しく雨が降り出して
買ったばかりの靴を濡らした僕はムスッと口を閉じて、君がころころ笑っているのにちょっとの間気づかなかった
「こんな天気に穿きたがるから…」そういうことは判っていたので僕は黙って頬を弛めた
あれは同じ八月だったよ


墓参の後の草いきれ、鼻の奥まで吸い込んで、もうじき通路を整えるらしい古い霊園後にした、君の用事で何度も通った古い港はなお古くなり、あのときと違う丈夫な靴で僕は小さなパンを買う
元気ですか、なんて聞くのはおかしなことだと笑うかい、僕は今度親父になるんだ、君の知らない素敵な人が僕の記憶をつないでくれる、小さなベンチに腰を下ろして僕は小さなパンを食べ




見上げれば

まるで

太陽みたいな





自由詩 太陽 Copyright ホロウ・シカエルボク 2010-08-19 16:11:47
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