くじらの浜
月乃助

海に生まれながら
潮音から逃れようとするものたちが、
水を去る夏

鯨たちが死んでいく
うみべ
―●―●―●―●―

どこかからやってくる それは、
凄烈な怒りの かたまりのように追いかけてくる
頭の中心に鳴りひびいては、水の中の者達を狂わす
中周波の音の波は、つらぬき求めるようにせまる

口元の笑いを拭い取り 叶えたい夢を消し去る
水の中では、幸せにいられると信じていた それなのに
逃げ場を求めて水を去る 無残な陸への回帰

昔 魚族が水を追われたように
陽射しの強さに眩暈しながら
水の中ではあんなにも明瞭に 自由だったのに、
濡れた瞳が探しているものは 
ここでは、すべてが光に包まれ輪郭を失っている

体さえも重さを増した 心臓への鋭い痛み
現実のこの世のありようを知らせるために
やってきたのなら
ヒレを引き裂き 得たばかりの足で陸の感覚を確かめられるはず
焼けた浜の微粒な砂の上を歩き出せ

ここは、希望さえも置き去りにした 後戻りできない海
鯨たちの 黒い群れ
死にゆく砂浜





自由詩 くじらの浜 Copyright 月乃助 2010-08-15 14:53:45
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